「たみのかまど」に煙は立つか

中小企業経営者は亀井金融相の政策に注目しよう

鳩山内閣発足

8月30 日の選挙で民主党が大勝し政権交代が現実のものとなり、9月16日新内閣の顔ぶれが揃った。この政権に対する私の評価は「どうなるかわからない」が本当のところであるが、是非実現してほしい政策がある。

それは(当時)国民新党の亀井静香代表代行が選挙活動の中で国民に訴えていた「中小企業への融資に対する返済猶予」政策である。昨年の9月15日リーマンショックによる「百年に一度」といわれる経済危機に見舞われ、その後の経緯は皆さん誰でもがご存知のとおりである。

図は決算が終わったばかりのお客さまの売上高の推移を「Zチャート」として表したものである。昨年の11月からの売上の減少は目を覆うばかりで、現在も回復の兆しは見えていない。このグラフは特別なわけではなく、販売業、サービス業にも及び、私どもの概ね三分の二のお客さまの共通の傾向である。

私は今年の1月号の『ほっとタイムス』でこのような景気の激変を「直下型地震による地盤陥没型」変動と捉えて、特別金融融資ではなく「融資の返済猶予」こそ中小企業の施策の中心にすべきであるとして訴えた。

私の浅知恵による独断と偏見かとも思っていたが、このように公党の代表者の口から語られると、非常に心強く思うと同時に是非実現して欲しいと思うし、これを読んでいただいている皆様に是非応援していただきたいのである。

与謝野(前)財務大臣の反応

9月16日の日本経済新聞の夕刊に与謝野(前)財務・金融相は、新たに郵政・金融相に就任した国民新党の亀井静香代表が中小企業向け融資などの元本返済を猶予する制度の導入を表明した件について「徳政令みたいな話だ、民間金融機関に返済を猶予しろと命令できるのかという法律上の問題もある」と述べ、実現に懐疑的な見方を示した、と報じられていた。

徳政令は債務を一律免除するものであり、返済猶予とは似て非なるものである。与謝野(前)財政・金融相の批判はあたらない。先ほどのグラフでもわかるとおり、業況の回復はまだ中小企業には及んでいないし、先月号の『ほっとタイムス』でも取り上げたが、業況が回復しない中、緊急特別融資による資金は既に底をつきかけており、金融機関はこれらの状況を見越して厳しい融資姿勢を打ち出している。

ニュースでみる国民が新内閣に望むもののトップは、「景気を良くしてほしい」というのが圧倒的に多いのを見ても分かるように、中小企業はこれから年末にかけて厳しい状況を迎えようとしているのである。

亀井提案は一石何鳥、亀井金融相は仁徳天皇になれるか

亀井提案は一石三鳥にも四鳥にもなるものである。中小企業に対する融資残高は約280兆円といわれている。返済猶予政策が実現すれば、年間20兆円前後の資金が中小企業内に留保されることになる。この経済効果は真水の経済効果であり、この政策が実現すれば企業は多量の出血による瀕死の状態から体力が回復することができるのである。

効果の第一は、中小企業の資金繰りを助け中小企業の存続が図れることである。

第二は、中小企業が世界のパラダイムシフトに際して業種転換や構造転換などの時間を稼ぐことができ、様々な対応ができ、それらに対応する資金を内部留保ができることである。

第三は、これはマクロ的に見ると強烈な内需となって現れ景気の底の下支えとなる。

第四に中小企業は雇用の75%を担っており、中小企業が安定すれば雇用も安定し、また、大企業の雇用調整のバッファーとしての吸収力も増すのである。

第五に財政的支出を伴わず次世代への先送りにならないことである。

このように一石二鳥どころか、一石何鳥にもなる。仁徳天皇は融資に対する徳政令どころか三年間租税を免除して国民が疲弊から立ち直るのを助け、国家国民の安定安寧を図った故事がある(※)。この故事に倣えば、国の必要な予算は国債で賄って一年間租税を免除して国民に資金を留保するくらい思い切った政策をとってもおかしいものではない。

しかし、残念ながら、この点については藤井(新)財務相は租税特別措置法を見直し増税を考えているようであるから、損して得取る政策は採らないであろう。

※ 仁徳天皇
貢ぎものゆるされて(租税を免じられて)、国富めるをご覧じて「高き屋にのぼりて見れば煙立つ民のかまどはにぎはひにけり(新古今集707)

LRパートナーズ代表社員 小川 湧三

 


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