インボイス制度の導入と免税事業者

インボイス制度の導入により、免税事業者は取引から排除されるなどの不利益を被るのではないかと懸念されている。

取引先が消費者又は免税事業者の場合は仕入税額控除を行わないためインボイスの保存を必要としない。また、事業者が簡易課税制度の適用を受けている場合も仕入税額控除を行うのにインボイスの保存を必要としないため、これらの取引では免税事業者であったとしても影響はほとんどないと考えられる。

取引先が課税事業者であった場合でも、実施後3年間は消費税相当の8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除可能とされる経過措置がある。しかし、経過措置後については、原則、仕入税額控除を浮けることができない。そのため課税事業者を選択し適格請求書発行事業者となるか、免税事業者のままで消費税分の値下げを行うかの選択を迫られる可能性がある。

日本の消費税のモデルともいわれるEUの付加価値税においても同様の問題は発生しているが、2017年のある調査によると日本の免税事業者に相当する事業者のうち、EU平均で約63パーセントが免税事業者を選択しているとの結果となっている。もちろん仕入税額控除を受けることはできないが、インボイス制度を導入した場合のコストが年間日本円で40万円程度掛かるといわれており、不利益を覚悟してでも免税事業者を選択していると考えられる。日本でも同様に、一定数の免税事業者は課税事業者を選択しないのではないかといわれている。

しかし、免税事業者と課税事業者が混在することで判断に迷う事例も指摘されている。

例えば、不動産を共有している場合、所有者の全員が適格請求書発行事業者である課税事業者とは限らない。その場合、その資産の譲渡や貸付けについては、持分等に基づいて所有者の所有割合に応じた部分について、インボイスを発行する必要がある。仕入れ側ではインボイスが発行された部分のみ仕入税額控除を行い、それ以外の部分と分けて経理するなど事務処理が煩雑化するような場合は免税事業者が排除される可能性は否定できない。

現状では、経過措置期間中は免税事業者であり続けた方が有利となる場合が多い。もし課税事業者を選択するのであれば、現状では仕入税額控除にインボイスの保存が必要とされない、簡易課税制度の適用を選択肢に加えてはどうだろうか。

 

《出典》

●公正取引委員会HP
●溝口史子(2020)『EU付加価値税の実務第2版』中央経済社
●畑中孝介・村田顕吉朗(2022)『消費税インボイス制度の実務対応』TKC出版

 



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