筋違い

死蔵されゆく巨額資産会長

これは日本経済新聞に掲載された「核心」という論説のタイトル「死蔵されゆく巨額資産」サブタイトル「金融老年学を活かそう」から採った。

「70歳代の人が持つ有価証券は2015年の150兆円から35年に468兆円に増えると、みずほ総研は試算する。個人が持つ有価証券のじつに半分。金融資産の高齢化である」

「人口高齢化は一般に貯蓄率を下げる要因になる。しかし、実際に金融市場で起こるとみられているのは株式など有価証券の高齢層への偏りだ」

また、別の日には「地銀、預金がお荷物」4月13日の読売新聞には「官民ファンド投資低調…公的資金持て余す」などの記事が出ている。

フローとストック

「死蔵」は私は筋違いのタイトルだと思う。金融資産を持っている高齢者の人たちはこの日のために金融資産を保有しているのであって、何もマネー・ゲームをするために金融資産を持っているのではないと思うからである。

金融資産はストックとして積み上がってきているのは報道の通りである。ストックからあふれ出てくるフローである利子、配当、特に利子は実質「ゼロ金利」になってから久しい。市民はフローがあって初めて安心して消費するのである。

ロバート・キヨサト氏が著書「金持ち父さん、貧乏父さん」の中で「一生懸命に働いて貯蓄し、そのお金が稼いでくれる収益で生活できるようにしなさい」と教えている。まさに働いて貯めたお金に働いて貰い老後をゆったりと豊かに暮らすはずの老後を「ゼロ金利」で不安に陥れているのである。

機能しない金融システム

銀行制度は渋沢栄一氏が作った。氏はヨーロッパ使節団に参加して、開発中のスエズ運河を通るときに、この事業が国の資金ではなく民間の資金によって行われていることを知り、その仕組みに興味を抱き、研究の結果銀行制度に至ったと聞く。

銀行はその集めた資金で産業を興すことができることを学び、帰国後銀行制度を作って国民の資金を集め、また、500を超える会社を作り、明治維新の日本を産業国家にした。

戦後、大創業時代を経て、資産を積み上げた高齢者たちは、この老後の日のためにお金を貯めてきたのであって、お金に働いて貰いそのフローで、老後の生活を夢見ていたのである。

いま、この高齢者が築き上げたお金を目の前にして借りてくれるところがない、高齢者の預金に利息をつけてあげられない、と言って傍観している金融機関を取り巻く金融制度はなにかがおかしいと感じるのである。

日本には有り余るお金があり、世界に冠たる産業技術がありながら、それを大きく活かすシステムや渋沢栄一氏のように大胆な発想ができる人がいない、といっても過言ではない。グローバル化した世界では日本の資金と技術によって開発できる投資機会を待っているところが沢山あるのではなかろうか。

筋違い

高齢者に金融資産が集中していることは各種のデータが示しているところで異を唱えるものではないが、先月号「大廃業時代」にも書いた通り、この金融資産の積み上げの大半は、かつてあった「大創業時代」を経て「総中流社会」を築き上げてきた人々が作り上げたものである。

高齢者を中心にした預貯金を目の前にして、何とかしてください云々は、渋沢栄一氏が聞いたらなんというであろうか。それを活用して高齢者の人々が預金を取り崩さずに安心して生活できるようにするのが政治であると考える。

預貯金に最低限3〜5%の利子を支払えるような政治や産業政策は立派な社会福祉政策でもある。

英国は、サッチャー政権の時にこれまでの社会福祉政策を転換して国民に自助を奨励するとともに、そのための国民の資産形成を助けるシステムを作り、今でも高利回りの商品を選択できるようにしている。

シンガポールでは、日本型の社会福祉政策は出来ないと判断して自助型の国民基金を作り高利回りの運用を提供している。

いずれにしても高齢者の金融資産を収益の生まれない不良資産にしてしまい、あるいは、高齢者をコンプライアンスに反してリスク資産へ誘導するのは政策の貧困を示すことであって、高齢者の金融資産を厄介に思うのは筋違いである。

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三


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