マイナンバー制度は両刃の剣

マイナンバー

野田首相は「税と社会保障の一体改革」関連法案の一つとして「マイナンバー」制度を導入する法案を提出している。

マイナンバーは納税制度と 社会保険制度の管理に使う番号を国民一人ひとりに割り振る共通番号制度である。

納税制度に関わる共通番号制度は、以前にも「納税者番号制度」 「グリーンカード」として何度か出ていたが、決定的な理由はなく『行政の効率性』のみがその動機となっていた。今度は社会保障制度と結び付けて浮上してきたもので、動機が不純と言わざるを得ない。

租税制度は所得のある人々を対象とし、社会保障制度は所得がない人、少ない人々(高齢者、障碍(がい)者など)を対象とした制度である。

この異なる両者を「保険料の未納」 「消費税の逆進性」を解消する手段として「国税当局の徴収能力」と「給付つき税額控除」という税制の持つ強制力を利用しようと提案されているのである。 「牛刀割鶏(ぎゅうとうかっけい)」(牛刀を持って鶏を割く)と言わざるを得ない。

国民を丸裸にするマイナンバー制度

マイナンバーは取引を始めるときには「マイナンバーカード」を相手方に提示してから取引を始めることが求められている。「税」の絡まない経済取引はない。この意味でマイナンバー制度は国民の経済生活の情報を根こそぎ集めるシステムになっている。

今までは高額所得者の把握を中心に目的に応じた情報収集が行われたが、マイナンバー制度の元ではどんな少額なものでも給付の公平の名の元に収集せざるを得ない。この意味でマイナンバー制度導入で一番被害を受けるのは低所得者、社会保障の対象者であろう。

低所得者層は給付の公平の観点からどんな些細な情報もマイナンバーの管理下に置かれ、場合によっては巧まずして相互監視社会に入らざるを得なくなるであろう。

情報の非対称性

マイナンバー制度の大きな問題点はマイナンバーの使用を義務付けられ、これに拒否権がなく根こそぎ情報を国家が収集するシステムであることである。

これにより、国家と国民との間に圧倒的な情報格差が生じ、しかも、個人情報保護を盾に外部からは情報の正しさを検証する手段がなく なってしまうことである。

情報格差の恐ろしさ は今でさえ原子力発電事故の状況を見ても明らかであるし、一方的な東京電力側の手中にある情報によって作られている電気料金の値上げにしても検証のしようもないのである。

チェックシステムとしてよく第三者委員会を設けてチェックすれば良いといわれるが、今までの国の委員会は政策に都合の良い委員を選んで委員会を構成する風潮があり、その人選の透明性は必ずしも担保されていない。

情報操作の可能性と取り戻せない風評被害

さらに大きな懸念は、国家組織による積極的な情報操作や不作為の情報操作がある。不作為の情報操作の典型的な例として、年金番号問題は顕著な例であろう。

情報にアクセスする担当者も人間である。守秘義務等が課せられていることは当然ではあるが、すべての担当者が善人とはいえず、覗き見る快感に勝てない不埒な輩が情報に携わる者の何パーセントかは存在するのであって、これを否定することはできない。

ひとたび情報の操作や情報の不作為により風評被害が発生すれば、鎧兜に裸で立ち向かうようなもので一個人では嵐の海に浮かぶ木の葉のように如何ともし難いのである。

マイナンバー制度は、国家の行政効率を高めるかもしれないが、国民は給付によるお金と引き換えにもっと人間として大切なものを失う危険をはらんでいる。一歩誤れば、一人ひとりの国民に及ぼす影響は計り知れず「マイナンバー制度は両刃の剣」と心得てその行方に関心を持ち続けたいと思う。

税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三

 


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