「生存コスト」とシンガポールの社会保障制度

生存コスト

生存コストとは私の造語で、平成20年7月第112号で「高齢化社会と生存コスト」と題して、高齢化社会を迎えて高齢化社会を生き抜くための生活費、医療費などの費用を生存コストとして論じた。

その中で世代間扶養論はまやかしであること、生産年齢を超えて生きてゆくコストは生存コストと考えて生産年齢の間に準備すべきものであること、社会保障システムは人の一生に係わるものであり超長期にわたるものであるから「しなやかで揺るぎないシステム」を構築しなければならないと書いた。

今年の2月、シンガポールへ行ってきたが、そのしなやかでゆるぎないシステムのモデルと思われるものがこの国で実際に実行されていた。日頃から私が考えていたことと共通することが多いのでここで紹介したいと思う。

詳細はシンガポール日本人会の杉野一夫さまのホーム ページに紹介されている。

シンガポールのCPF (中央積立基金)制度(※)

リー・クアンユー元首相は国民の自立を助ける制度としてCPF制度を作った。このCPFの基本的な考え方は

「英国とスウェーデンの福祉コストを見て、われわれは政府を弱体化するシステムを避けなければならないと思った。福祉は自助の精神をひそかに害する」

「シンガポールは大きな税収が必要とされる福祉国家になり得る環境にない」

国民に愛国心とシンガポールの政治的安定をもたらすためには世帯主をマイホーム所有者にして国民を自立させること、老後の生活を安定させることと考えそのための制度としてCPF制度を作ったとのことだった。

完全に自助の精神に貫かれたCPF

CPFは従業員と雇用主が拠出する。(現在は給与の 20 %と 15 %)。このCPFは次の三つの部分から構成されている。

①3分の2(積立総額から特別口座と医療補助口座を差し引いたもの)は低所得者、中間所得者の住宅の購入や投資、子供の教育などに使う「普通口座」

②拠出合計の4%相当額を老後の年金や緊急事態のときに使う「特別口座」

③同じく6%相当額を入院費、医療保険の購入などに使う「医療補助口座」。

日本の健康保険、厚生年金、確定拠出年金などが一つのCPF口座に入っている。この口座には住宅取得や教育資金の準備も組み込まれており、今日本で問題となっている教育や福祉制度をカバーした非常に優れた総合的な制度である。

もう一つの特徴は相互扶助という考えはまったくな く、完全な個人口座でこの口座の積立金は自分以外の誰のためにも使われない完全な自助の精神を貫いていることである。

さらに医療費については「MediShield」という任意医療保険への加入制度を、貧 困層に対しては政府拠出によ る「Medifund」というセーフティネットを備えている。

シンガポールは福祉国家にはならないと明言しているが、政府はセーフティネッ トを作っているので、シンガポールは自立精神の上に成り立った福祉国家であることは間違いない。

まやかしの世代間扶養論に惑わされることなく、検討に値するシステムだと感じ紹介させていただいた。

CFP=Central Provident Fund ( 中央積立基金)

この制度は次世代に負担をかけることなく、 それぞれの世代が自分のために将来に備えて 政府が個人と企業に強制的に貯蓄をさせ、個人に代わって管理するという制度。CPFに関する内容は杉野氏の「CPF シンガポールの福祉制度の礎」に基づいている。

生存コスト(私の造語):生存コスト= 公的年金+医療費+介護費用

生産年齢(65歳)を過ぎてから受け取る年金や生産年齢を過ぎてからかかる医療費・介護費用は生産年齢を過ぎてから生活をしていくためにかかる費用と考えればこれを生存コストとして捉えることができる。

LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三

 


神奈川県川崎市で税理士をお探しなら

LR小川会計グループ

経営者のパートナーとして中小企業の皆さまをサポートします


お問い合わせ


 

「生存コスト」とシンガポールの社会保障制度” に対して1件のコメントがあります。

コメントは受け付けていません。