「TAX ME」という新しい問題提起

「TAX ME(私に課税せよ)」という提案

昨年2月、自然発生的に生まれた小さな政府を求める『ティーパーティ運動』(※1)が起こり、ついに9月ウォール街を舞台に公園を占拠するデモ事件にまで発展した。これに呼応するかのように富裕層から「Tax me! (私に課税せよ)」という メッセージを掲げた運動も始まっている。

昨年8月 15 日ニュー ヨークタイムズ紙にウォーレン・バフェット氏は富裕層の一人として富裕層への増税提案を行った。バフェット氏が増税提案を行った背景には、1%の人々が 20 %の金を支配し、5%の人々が 40 %の金を支配しているといわれる所得格差問題が潜んでいる。

このスーパーリッチの超富裕層に属する人々が「Tax me!(私に課税せよ)」と いうメッセージを掲げて運動を始め、増税提案が顕在化したことが今までにないところである。

(※1)ティーパーティ:本誌 2010年 12 月(第141号)参照

所得格差問題の本質

アメリカにおけるこのティーパーティ運動と「Tax me」運動の中核にある格差問題は「お金を働かせる層」と「自己の体を働かせる層」との間の格差が拡大していることである。

同じ白人社会にあっても、「お金を働かせる層」の所得源泉である利子、配当、キャピタルゲインは時間経過に伴って複利で増殖し、「自己の体を働かせる層」の所得の源泉である賃金は、グローバル社会の中では低賃金諸国との競争で右肩下がりで下がり両者の格差は広がる一方である。

この構造的な問題のほかに、もう一つの格差拡大の重要な問題はこの金融資産課税がきわめて優遇されていることにもある。

アメリカの「Tax me」運動の主張の中には、自分の恵まれ過ぎた環境に気がついた若者や、金に縁の少ない兵士たちがアフガンやイラクで命を懸けて戦っている間も一分、一秒も休まずお金は自己増殖 を続けていることに痛みを感じている人々の贖罪 (しょくざい)の感情も入っているのかもしれない。

長寿社会はお金に働いて貰わなければならな い社会

ひるがえって、日本の社会は少子高齢化が始まって久しい。私は独自に試算し何歳からでも「八人に一人は生存年齢百歳」と言っているが、現役で働けなくなった後の生存コスト(※2)は、現役時代に準備したお金に働いて貰わなければ生存を維持できないのである。

なぜならリタイア後の 30 ~40年にわたる長期間を他人に頼ることは不可能と言っても差し支えないと思う。自分で働けない分をお金に働いて貰わなければならないのである。この意味でゼロ金利では長寿社会は維持できない。ゼロ金利が 10 年以上も続いている社会は破綻社会と言っても過言ではない。

かつては産業資本として雇用を生み出してきた金融機関は産業を育てられない金融機関となってしまい機能不全に陥っているといわなければならず、金融システムや構造を根本から見直してほしいものである。
(※2)生存コスト:本誌2010年4月(第133号)参照

「TAX ME」は新しい問題提起

「Tax me」運動はアメリカの税制のゆがみの表れでもある。税は社会を変える。お金に働いて貰わなければ自己の生存コストを生み出せない社会においては、金融政策や金融資産課税の在り方は慎重に考えなければな らない重要な課題である。

長寿社会においては相続が始まるときは相続人はすでに自己の社会的地位を確立し、自立しており、すでに相続に頼らなくても生活権を確立している年齢にある。また、汗水流して一円から蓄財し功なり名を成した人と、温かい布団にくるまれ育ちそれを受け継いだ人との金銭感覚に違いなども相続に大きな影を落としている。

相続をめぐる社会制度を再構築する必要があるのではなかろうか。産業を育てられない金融資産を預かるだけの金融機関の機能の在り方を問い直さなければならない。多方面の問題提起がこの中から見えてくるのである。

税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三

 


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