昭和59年化学品卸会社での出来事【Ⅱ-❺】

ぜい昔話 エピソードⅡ ❺

緊急秘匿の調査展開はドラマの序章

ぜい昔話
昭和59年の丸の内

調査2日目は何事もなかったように午前10時に特官と会社へ赴き、会議室で通常の売上調査を行った。

膨大な数の売上先から昨日知りえた情報が公表預金にないことを確認する(申告計上にないことが大事➡重加算税対象には必要)とともに全売上先の住所・電話・担当者・直近の売掛金のチェックを行いながら、売上計上漏れ(いわゆる税務用語で期ずれ➡納品日は決算期末日までで売上計上は翌期となっている取引で翌年の帳簿には既に売上計上されており過少申告加算税対象のものをいう)を把握していった。

次に、仕入・外注費勘定から買掛金・未払金先の住所・電話・担当者・直近の残高チェックを行いながら、経費過大計上(2重計上の有無ほか)交際費計上漏れを把握していった。これらの帳簿調査では初日の有価証券売却益計上漏れ・売上計上漏れ・経費過大計上・交際費計上漏れ等で過少申告加算税対象・約2千万円以上の調査非違事項で、会社の経理部長や税理士は対応に追われていた

関東の辺境地の会社に的を絞って調査した様子を見せずに夕方4時30分頃に会社役員・税理士に明日の3日目の調査予定は突然ですが所用があり、キャンセルする旨を話し、2日間の帳簿調査は終了した。帰署と同時に現在までの調査状況を総括特官(特官部門のトップで副署長待遇)に簡単に報告した。

担当特官と明日から某県辺境での取引調査・反面調査の予定と準備をするとともに、辺鄙な場所なので所轄の総務課長に依頼し、宿泊先の予約の依頼とともに、明朝に伺うと電話連絡を行った。

翌朝に某県の小さな税務署では、特官は署長室へ、私は総務課長に挨拶を済ませ、これから向かう会社や社長の申告・納税状況の把握と住宅地図を秘匿に手に入れ、直ぐに取引調査に入った。

東京駅近くに送金された資金の捻出原因を把握するための調査であり、東京から調査に来ること自体大変に珍しいことで取引先職員達は興味深々の状況にあった。私は過去の経験から(調査先取引周辺者・国税内部関係者ほか)一切の調査情報を知られないように秘匿に調査を進めるよう細心の注意を払った。その結果、当社から外注費が振り込まれた日に現金で一旦出金し、わざわざ自動預金機で別途送金していたその行為者は反面先社長であることもわかった。

取引のスタートから直近までの金の流れを把握したところで特官へ終了の合図を送り、その調査先を出たのは午後3時を回っていた。特官は宿へ戻ろうと言ったがこの街でウロウロするのは危険と感じ、あまり時間はないが外注先への反面調査に向かうことにした。

目的地のバス停留所までタクシーで向かい、そこから山道をただひたすら登って行った。登り初めて約1時間が立ち、後ろを振り向いた時、外界の自動車が米粒位の大きさに見えた。特官は「おい、大丈夫か。こんな山奥に本当に工場なんてあるのか。今日戻れなくならないか」と声を掛けた時、小型トラックが唸り声を上げながら登ってきた。それを認めた私はとっさに車を止め、「甲会社の社長の甲さんですか?」と声をかけた。

それが巨額不正の解明端緒となり、今後の租税史の1ページを綴ることとなるとは本人はまだ気づいてはいなかった。そして自分が稚すぎたことを知った。

▶︎▶︎▶︎ つづきは2022年(令和4年)12月号へ ▶︎▶︎▶︎



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