不動産は“どこ”をみる?

不動産はどこをみる【鑑定士の哀愁】不動産はどこを見る

まず、不動産鑑定士としては悲しいお話をひとつ。この間、私が新規で担当することになったお客さまのところで税務の話をしていた時のことです。「以前、同族間で不動産を売却するときに、適当に価格を決めると税務署から否認される可能性が高いというから不動産鑑定士に売買物件の鑑定評価を依頼したんだけど、常識的な価格で『なんだ、こんなもんかよ』って感じで、もう、高い報酬支払って鑑定評価なんか使わなくていいよな』との弁。

しかし、『その常識的な価格』でないと税務署に否認されるかもしれないのも事実です。鑑定業界に身を置いていた人間としては何とも哀愁が漂うばかりなのですが、業界の宣伝不足も多分にあるような気もしています。

【鑑定評価の身近な例】

不動産鑑定評価を行う時に準拠しなければならないとされている『不動産鑑定評価基準』においては、不動産鑑定士が求めるべき価格は「正常価格」であるとされています。これを簡単に言ってしまうと、「常識的な価格」であり、鑑定士は常識的な価格を淡々と説明し、導くのが仕事ということになります。しかし、結構いろいろなところで使われています。

【REIT(不動産投資信託)】

例えば、今や投資商品の優等生ともいえる「REIT(不動産投資信託」の組入不動産の評価があげられます。ここの主体である投資法人等が不動産(厳密には信託受益権)を購入する時は、投資家保護のため、不動産鑑定評価を取得し、1年1回は評価の見直しを求められます。しかも、この評価は証券化対象不動産の評価と言って、ここで紹介している普通の不動産の鑑定評価の何倍もの労力をかけて評価書を作らなければなりません。加えて、期限が非常にタイトです。

証券化対象不動産の特徴としてあげられるのが、規模が大きいオフィスビルやマンションはもちろん、近年はとある有名旅館運営会社が「J-REIT」として上場を果たすなど、ホテル・旅館、温浴施設、高齢者向け施設を組み入れる例が随分増えてきました。

オフィスビルやマンションですと膨大な賃貸借契約書等を読み込んで賃貸借契約一覧表(レントロール)を作り、事業用不動産であれば、ホテル業界の動向や温浴施設業界といった各業界の動向をレビューしたうえで、対象不動産における過去の運営状況から今後の運営状況をある程度予測しなければなりません。この過去の運営状況が曲者で、段ボールが積み上がるほどの量だったりします。まさに書類まみれの状態になってしまうのです。ですから、成果物である鑑定評価書も結構分厚くなってしまうこともしばしばです。
私もこの類の鑑定評価依頼を受けた時期がありますが、毎晩徹夜に近い状態だったことを思い出します(涙)。

ただ、その分、数多くの業務を密度濃くこなしますので、心身ともに疲弊しますが、確実にスキルアップできると思います。

【路線価評価等】

その他、身近なところでいえば(過去にも弊誌の違うところで解説していますが)、地価公示、都道府県地価調査、相続税の路線価評価や固定資産税の評価があります。

特に後の2者は弊誌の読者の方も税金に直結するだけに興味を持たれているのではないのでしょうか。相続税路線価評価では、毎年1月頃、不動産鑑定士が集まって、地価公示価格や都道府県基準地価格とのバランス等を考慮してその基となる標準地の価格を決定しています。固定資産税評価では3年に一度不動産鑑定士が集まって、これも地価公示価格や都道府県基準地価格とのバランス等考慮してその基となる標準地の価格を決定しています。

また、いずれも地価公示や都道府県地価調査と同じく不動産鑑定評価書の形で決定されています。特に地方の不動産鑑定士にとっては、地価公示、都道府県地価調査、裁判所の競売評価と並んで、大きな収入源となっているのが実情です。

【裁判所の競売評価】

最後の例としては裁判所の競売評価です。

これは、裁判所が担保不動産の競売等で最低売却価額を決定する際に参考となる価格を算出するもので、厳密にいうと不動産鑑定評価ではありません。このため、価格を導き出す過程は簡便なのですが、未登記建物や未登記増築、他人物件の介在等通常ではあまり考えられないような物件も多く、物的確認、権利の態様の確認を非常に細かく行うよう裁判所から求められます。そういう意味では競売評価人の鑑定士は「確認のプロ」といえるかもしれません。

【次回予告】

今回は、随分脱線して、鑑定業界の宣伝のようになってしまいましたが、次回は、本題に戻り、対象不動産の確認等のお話しをする予定です。

 


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