二兎を追う

203_会長2_opt菅官房長官の講演から

第三次安倍政権が誕生したあと、菅官房長官は都内で「安倍政権の目指す政治」と題して講演し、〝私たちは、「経済再生」と「財政再建」という極めて難しい二兎を追って二兎を得る。〟と安倍政権の基本方針を示した。

しかし、この二兎を追う政策はタイミングが遅すぎたようだ。ラインハートとロゴフという経済学者は、

『「公的債務がGDPの 90 %を超える と経済成長率が1%低下」する、したがって「公的債務の累積が経済成長を押し下げるならば『成長が先、財政再建は後』は成り立たない」、先に成長したくても、公的債務の重石のために成長できない』

、と云っている。

日本は既に公的債務のGDP比は250%近くまで達していて、来年度の予算も 40 兆円近い財政赤字で国債の増額は止まらないのである。

財政法では赤字国債の発行を禁止しているが、赤字国債を発行するときは特例公債法を毎年成立させ、赤字国債を発行してきた経緯がある。

しかし、平成 25 年民主党から自由 民主党に政権交代するときに、今年度分までの三年分一括承認を受けて赤字国債が発行されてきた。

今年期限が切れるので、今国会では平成 32 年まで5年間の一括承認を求める法案を提出することに決まった。財政再建どころか財政規律のゆるみが透けて見える。

日銀総裁の警告

黒田日銀総裁は昨年2月の経済財政諮問会議で「経済成長によって財政再建をする」というある審議委員の発言に猛然と反発して、オフレコ発言として次のように言ったという。

❖「日本国債の格付けが下げられた 状況で、スイスのバーゼル銀行監督委員会(BIS)では『日本国債を損失が出ない安全な資産と考えるのはおかしいのではないか』という議論がなされています、と表明。」

❖「2014年末のムーディーズによる日本国債の格下げに伴い、欧州の一部の銀行が日本国債の購入を控えていたり、手放していると現実に日本国債が敬遠され始めていると説明。」

❖「このままでは日本国債を売るという議論しかありません。いつまでも日本国債は問題がないだろうという考えは今や通用しないという話です。」

と極めて重い警告を述べている。

このあとの2月 16 日にNHKは 「ニュースウォッチ9」の中で「預金封鎖の真実」の特集を組んで放映し、いつ戦後のように財政破綻してもおかしくはない、と言っている。

今年は波乱の始まり

昨年末のトルコ・ロシアの経済制裁の応酬を受けて、今年の年明け早々

①サウジアラビア・イランの国交断絶
②北朝鮮の水爆実験
③中国のバブル崩壊による世界的な株式暴落

などが続き、東京証券所開設以来の初日から6連続東証日経平均の下落で今年の幕が開けた。

先に述べたとおり安倍政権の株価維持政策と成長戦略に頼る財政再建に赤信号がともった感じがするのである。

国内要因としての波乱要因は「ゆうちょ」の上場である。

昨年 11 月4日「ゆうちょグループ」3社が上場した。上場した「ゆうちょグループ」は保有資産の約 50 %150兆円に近い国債を保有しているのである。

冒頭に書いた日銀総裁が触れていたBIS規制は2019年から実施すべく規制案を発表し、金融庁などはそれに準拠した大手銀行の資本強化を指導し始めている。

また、ユーロの欧州銀行監督委員会(SSM)では今年の銀行査定から国債の「リスクゼロ」を転換して銀行に国債の保有制限を課すこととした。

ゆうちょグループが保有する国債だけを「リスクゼロ」にすることはできないであろうし、国債を大量に保有する「ゆうちょグループ」の格付けがどのようになされるか固唾を飲んで見守るほかはないのである。

もう一つの波乱要因はアメリカのFRBが昨年末にゼロ金利政策を解除し金利を設定した。

今は前述した国際要因などのため有事のドル買い、避難通貨である円などに向かっているため円高現象が起きているが、経済の先行きが見えてくれば、アメリカの利上げに追従できない円の実態があからさまになると、超円安、あるいは金利高騰に見舞われかねないのである。

安倍政権の二兎を追う政策は冒頭の経済学者が示唆するように「虻蜂取らず」になる危険をはらんでいるのである。

 

税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三


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