「納税者権利憲章」

異色の税制改正

今年の税制改正は「衆参ねじれ」や東日本大震災とそれにともなう原子力発電所事故によって遅れに遅れて未だ成立していない状況である。

しかし、中でも異色の税制に関する改正は国税通則法の改正である。法律名が「国税に係る共通的な手続き並びに納税者の権利及び義務に関する法律」と名称が改められ、第4条に「納税者権利憲章」の規定が織り込まれ、納税の権利及び義務が真正面からとりあげられたことであろう。

納税者権利憲章はOECD諸国において多くの国が制定しており、このような「憲章」を定めていない国は日本を含めて数カ国に過ぎないのである。わが日本もようやく先進国並みの国民主権を標榜する国の仲間入りができたということである。

納税者権利憲章とは

私自身も納税者権利憲章には深い関心を持っていて、1988年レーガン政権下のアメリカで、連邦納税者権利保障法が制定されたときの興奮が鮮やかに呼び起こされている。

視察旅行でアメリカへ行ったとき、自由行動日の時間を使って図書館めぐりをし、つたない英語で関連資料を探し、見つけることができたときのうれしさは今でも髣髴(ほうふつ)と沸いてくる。

納税者権利憲章は、ボストン茶会事件が国王の課税に対する市民の反乱であったようにアメリカの納税者権利憲章はIRS(アメリカの国税庁に相当する機関)の徴収権の強権的な執行に対する国民の反感から生まれたのである。

権利憲章はなぜ必要か
(納税の義務と国民の権利との調和)

財務省、国税庁は憲章の導入に消極的であったと聞くが、その理由は納税の義務は憲法第 30 条で国民に課せられた義務であって、納税に関する権利を定めていないということらしい。

しかし、この視点は危険である。納税義務にともなう租税の徴収は税務調査や租税の徴収というように公権力の行使を背景としているために、納税額を確定するための税務調査権や、確定した税額を徴収する租税徴収権の行使に当たっては国民 = 納税者との間で少なからず軋轢(あつれき)を 生じているのである。

課税権は課税客体の決定権については憲法 84 条で法律による課税 ( 租税法律主義 ) を規定しているが、それでも通達行政と批判され、昨年の最高裁判所判決でも示された 武富士事件のような課税がなされている。

ましてや、基本的人権との調整規定を持たない税務調査の執行や徴収権の行使に当たっては、時には納税者が最初から脱税者扱いを受けていることが報告されている。現在提案されている納税者権利憲章は、適正手続きの観点から手続規定に重点を置かれている。

しかしながら、国民の納税義務と基本的人権との調整という視点が見受けられない点が気にかかるところである。

弱者に厳しい社会にな らないように

納税者権利憲章は納税者の権利との兼ね合いで 納税者の義務も当然ながら表記される。この点で注意しなければならないことはいくつかある。

一つは課税当局が納税の義務を殊更強調する姿勢を打ち出すことである。当然のことながら、無条件に課税権や徴収権に服することはないのであって、これらは納税者の同意が大原則である。納税は国民の義務であるとはいえ、刑事捜査や刑事被告人以上の権利侵害を納税者は容認する必要はないといえるであろう。

次に、「税と社会保障の一体化」の中で導入が検討されている国民番号制「マイナンバー」の導入がある。国民番号制は課税の捕捉よりも社会保障の配分に重点を置いており社会的弱者のより精密な把握を目的としている。

『ハサミと包丁は使いよう』と云われるように、納税者権利憲章や「マイナンバー」も使いようで、弱者に厳しい社会にならないように、人間として尊重される社会になるように願うものである。

税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三

 


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