パナマ文書

会長タックスヘイブン

今年4月3日「パナマ文書」なるものが公表されて世間を賑わしているが、5月11日詳細な内容の公表があった。私たちの業務分野である税に関すること、いわゆる「タックスヘイブン(租税回避地)」がクローズアップされている。

税に係わるものとしてタックスヘイブンは関心を寄せざるを得ない面がある。私は1974年にスイスに行ったときプライベート・バンクの存在を知った。以後機会を見ながらパナマ文書でタックスヘイブンと名前が挙がっているシンガポール、ケイマン、バハマ、チャネル諸島、バミューダ、ラブアンを訪問する機会があり、パナマ文書を身近な物として見ている。

タックスヘイブンの起源については三つのルートがあるといわれている。一つは私たちがなじみの深いスイスである。スイスはナチス・ドイツのヒトラーからユダヤの人たちの財産を守ったことで有名で、ユダヤ人に限らず戦乱の中で富裕層の人々は自らの財産を守るためにスイスを利用した。

資源の乏しいスイスは金融業を産業の基盤とすべく銀行に口座秘密保持義務を課し、口座秘密保持義務を侵すものは刑罰を科すことで産業としての金融業を守った。ただ、秘密保持義務を課すだけでなく、ドイツの圧力に対抗するために武装中立を掲げてヒトラーの武装制圧を諦めさせたことは有名である。

もう一つは、イギリスで発達した。イギリスは植民地が拡大するにつれて全植民地を課税領域とする煩雑さから各自治領ごとに課税権を分散し、各自治領単位に課税権を分割したところから信託制度と共にタックスヘイブンも発達してきた。

さらに、第二次世界大戦後は植民地の崩壊と共にロンドンシティの国際金融センターの地位がアメリカ(ニューヨーク)に脅かされ、金融センターの地位を維持するために政策的にタックスヘイブンを育成した。タックスヘイブンがイギリスの関係自治領などに多いのはそのためだと推測される。

近代国家と課税権

タックスヘイブンのもう一つの側面は課税権が国家の要件とされていることの裏返しとして発生したとも考えられる。

近代国家が租税国家として形成されるにつれて課税権は国家主権の発動として考えられ、日本国憲法でも国民の義務として「納税の義務」が課せられているように、近代国家は租税を国家財政の基礎としている。

しかし、世界には資源に依存し租税に依存する比率が少ない国や、独裁的国家形態をとり租税制度が機能しない国家、租税制度はあっても賄賂や袖の下の慣習が強く納税思想の極めて低い国など様々な国があり、数では近代的租税制度を持っている国は極めて少ないのである。

5月11日に公開された国別のタックスヘイブン利用者一覧に中国人関係者が圧倒的に多いのは国情の一端を覗わせるものであろう。

納税者権利憲章

OECD諸国では課税権が国家の主権であることとあわせて、納税者が最大限尊重されるべきこととして「納税者権利憲章」を制定している。

イギリスでは1991年8月に納税者権利憲章が改正され、その中では「公正」という項目の中に「あなたは法律のもとで義務が生じる額についてのみ支払が求められること」と書かれている。

納税者がいろいろな制度を合法的に利用して自らの納税額を最小にすることは納税者の権利だと認めているのである。ここに「パナマ文書」の評論の中に「タックスヘイブン」は合法だがというコメントがつくのだが、その利用者の中には前段でも述べた汚職、独裁利権などのダークマネーをも吸収していて、それらが明らかになりつつあるところに話題性が集中しているのであろう。

グローバル税制の在り方

アメリカが先進国の中で唯一国籍主義をとっており、その他の国は居住地主義をとり、自国に居住する人に課税権を行使する仕組みになっている。この居住地主義が「タックスヘイブン」を存続させる主要な要因となっていると考えている。グローバル化した地球市民として税を考えるなら、志賀櫻氏が「タックスヘイブン」の中で「シチズンシップ課税」を提案されているように、私もこのほっとタイムスの中で何度か提案しているように居住地主義から国籍主義にするのが望ましいと考えている。

銀行の口座秘密保持義務に対しては租税徴収権の時効を停止することが有効な対策となると考えている。

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 


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