「貯蓄から投資へ」時代の税制を考える

リスク資産へ傾斜する政府の施策

8月10日の日本経済新聞が金融審議会の研究会が「貯蓄から投資へ」個人金融資産を誘導しようとリスク資産を優遇するため金融一体課税に向けた報告を発表した、と報じた。ここでいうリスク資産とは元本が保障されない有価証券などの資産をいう。

確定拠出年金制度が始まって年金の運用リスクが年金運用のプロから素人の国民の側に移された。さらに、政府が個人国債の発行を始め、国民向けの金融商品の直接販売を始めた。今まで証券会社や保険会社が扱っていた投資信託や保険を金融機関での窓口販売も始まった。

また、証券仲介人制度が発足し、リスク資産である有価証券の販売が民間に広く開放されることになった。郵便局も民営化に伴い投資信託の販売を始める方向という。個人金融資産1400兆円をリスク資産へ取り込もうという必死の思いが感じられる。

抑制に動く税制改正

3月31日税制改正が成立し、譲渡所得の損益通算を、株式譲渡損益の通算と同じく、分類所得間の通算とし、金融資産事業所得や不動産所得との損益通算を禁止した。

しかし、損益通算を狭めることは「貯蓄から投資へ」という方針とは相反するものである。コツコツと貯めたお金は容易にリスク資産には向かわない。リスク資産に向かうのは保険金やキャピタルゲインなどであろう。保険金やキャピタルゲインも一度は個人金融資産にかわる。

金融資産からリスク資産へ向かわせるには損益通算の対象に保険金やキャピタルゲインを含めなければ「貯蓄から投資へ」誘導することは難しい。

損失は時期を選択できることは当然のこと

所得分類の異なる他の所得と損益通算を認めない理由の一つとして金持ち優遇、損失計上に恣意性がある、などが挙げられている。

しかし、リスク資産の収益・損失をいつの収益・損失として確定するかは投資家が自由に選択することは当然の行動である。損失の計上が投資家の恣意性に委ねられることは望ましくないとして、損益通算を制限することは投資の本質を歪めるものである。

税率がフラット化すれば納税番号制度は要らない。

金融審議会の研究会が10%の税率の恒久化を提言した。税率は限りなくフラット化する。この限りでは研究会の提言は評価できる。しかし、勤労所得や事業所得への税率より低い10%の低税率へのフラット化は所得の本質と担税力から見て間違っているものと考える。

「貯蓄から投資へ」には資産所得やキャピタルゲインは低税率化より高税率・綜合損益通算がより適切である。また、金融資産一体課税と併せて納税者番号制度の導入が論議されているが、源泉徴収制度が完備しているわが国では、税率がフラット化すれば、所得の完全補足を目的とする納税者番号制度は不要である。

金融資産所得の税率が勤労所得、事業所得の税率より高ければ、勤労所得・事業所得よりも高い税率による金融所得との通算を選択する確率が高く、総所得からの損益通算による損失還付制度のほうがより国民の要望に合致した制度であろう。

(小川 湧三)


神奈川県川崎市で税理士をお探しなら

LR小川会計グループ

経営者のパートナーとして中小企業の皆さまをサポートします


お問い合わせ