ペイオフはいつ起きてもおかしくない?

ペイオフの可能性

ペイオフの解禁を巡って政府の方針が迷走しはじめた。ペイオフはいつ起きてもおかしくはない、木村剛氏はいう。同氏の著書「粉飾答弁(下)木村剛P.25-26」からそのまま転載する。

――エンロン破綻で露呈した「金融突然死」の危機――

弱り目にたたり目という。悪いときには悪いことがいろいろと続くものだ。2001年10月に米エネルギー会社のエンロンが経営危機に陥り、11月29日、同社の円建て債を組み入れたMMFが元本割れを記録した。

MMFの元本割れと言う異常事態に解約が殺到。ある証券会社系アセットマネジメント会社のMMFは、2兆7千億円の残高に対し、この日だけで1兆円を超える解約申請があった。その後一ヵ月の間に2千億円にまで残高を減らしていく。

マスコミの扱いはそれほど大きくはなかったが、このエンロン・ショックが金融界に与えたインパクトは凄まじかった。「解約じゃねぇ。これは取り付けだ!」――ベテラン市場関係者の叫びがその恐怖を代弁している。

どんな金融機関であろうとも、一ヶ月の間に資金の9割以上が引き出されたら倒れてしまう。エンロン・ショックは、まさに擬似取り付けを発生させたのだ。それにしても、人々の不安心理がここまで高まっているとは・・・・・・。同じようなことが銀行でもし起こったら、ひとたまりもない。

そして実際に、類似の危機はその背後で起こっていた。元本割れしたMMFを窓販していたある銀行では、顧客からの解約申請に対応してアセットマネジメント会社から振り込んでもらうまでの間、当座の解約資金を立て替えていたが、あまりの急激な解約増に資金繰りが逼迫。インターバンクから調達しようとしたが資金が取れない・・・・・・。

ゼロ金利の下、インターバンク市場はその機能を失いつつある。40兆円あった市場規模は15兆円にまで減少。100億円をオーバーナイトで貸しても270円程度しか利子がつかない状況では人件費も稼げない。各銀行は担当者を削減し、会議中だと電話をかけてもだれも応答しないという笑えない現実がそこにあった。

電話がつながったところで、270円程度のビジネスのために人が動くわけでもない。窮状を訴えれば訴えるほど、「この銀行は危ないんじゃないか」という懸念が出し手の心理を支配する。金利を引き上げようにも、引き上げるというその行為自体が、「信用に問題があるのでは」という疑念に火をつける。

いざとなれば、日銀のロンバート貸し出しがあるさ――と思っていたら、肝心の国債は、外国銀行との取引や大口預金者である地方公共団体に対して担保として差し出されており、意外に担保繰りがキツイ。一時は、非常事態の発生すら取り沙汰された。

結局、深謀遠慮の末に支援を決定したある大手行のサポートと日銀の資金供給で事なきを得たが、実際はヒヤヒヤものの綱渡り。11月30日の日銀当座残高が前日より5兆円以上増額している事実が危機の深刻さを物語る。これで、いつ何時、インターバンクで事故が起きてもおかしくないことが確認された。

エンロン・ショックは、預金者による取り付け騒ぎや、インターバンクにおける突然死が発生し得ることを図らずも示してしまったのである。

(小川 湧三)

 


神奈川県川崎市で税理士をお探しなら

LR小川会計グループ

経営者のパートナーとして中小企業の皆さまをサポートします