収益還元法について②

収益還元法への転換

7月6日の新聞によれば不動産鑑定士が土地や建物の価格を算定する際の基準を11年ぶりに見直し、来年度から商業用不動産などを対象に収益還元法による評価方式に転換する、と報じている。

すなわち土地と建物と一体とみなし、賃料などでどの程度の収益が見込めるかによって評価することにより、不動産の収益性を明確にし物件の売買や証券がし易くなり不動産市場の活性化を図ることができるとしている。

土地制度・欧米と日本の違い

収益還元法は欧米では中心的な手法であるが、日本では実効性のない手法とされてきた。欧米との大きな違いは土地の所有権制度にある。欧米は利用権が中心となっているのに対して、日本は所有権が中心となっているところにある。借地借家法、農地法、建築基準法なども土地利用に関して大きな制約を与えている。

過重な不動産税制

所有権制度を前提に不動産(土地、建物)は特別な財産としているがゆえに、登録税、不動産取得税、取得に係る土地特別保有税、取得に係る事業所税、固定資産税、保有に係る土地特別保有税、保有に係る事業所税、譲渡にかかる所得税(国、県、市)など多数の公課が課されている。収益還元法を前提とするならばこれらの税コストは収益を圧迫し土地価格を引き下げることになる。

また更に重要な点は土地の取得費が収益にかかるコストと計算されないのに対して、欧米では多くはコスト計算されていることである。

収益不動産の現状

第6号でも述べたが、土地所有者が賃貸住宅を建てて賃貸しようとするとき賃貸収入だけで建物への投資価格を回収するのがやっとである。このような状態では収益還元法で計算すると賃貸住宅を建てた途端に土地価格がゼロになってしまう計算になる。

収益不動産の評価に収益還元法を強行適用すれば、建築工法の革新による建築コストの削減や建蔽率や容積率などの利用効率を引き上げるなどをしない限り、地価は限りなく下落をせざるをえないと思われる。

不動産流動化策としての証券化と収益還元法

不動産流動化策としての証券化を前提とした収益還元法は、不良債権処理の過程で放出された極めて特異なデフレ状況においてのみ適用できる方法ではなかろうか。

もし、収益還元法を定着させようとするならば土地制度のあり方や土地税制を根本的に見直す必要である。不動産投資におけるリスクプレミアムを考慮すれば現状における収益率では、コストが高すぎて不動産の証券化の普及が難しいのではなかろうか。

(小川 湧三)

 


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