チャイナ・デフレ

なぜ賃金は上がらない?

岸田首相は賃金引き上げの大号令をかけて、必死に賃上げを呼び掛けている。コロナによるサプライチェーンの寸断、その上にウクライナ戦争によるブロック経済化による資源価格の高騰などにより諸物価の値上がりによる影響が出始めているのは新聞報道にもあるとおりである。たまたま、藤波匠氏の「なぜ少子化は止められないのか」を読んでいた時に「一般労働者の名目賃金の推移」「出生年別、大卒男性正社員の実質年収の変化」という図表を見つけた。

また、産経新聞のコラム「春秋」「失われた30年と呼ばれるときを経て、日本経済は持続可能な何かをつかむことができただろうか。いまそれが試されている。」という文章と重ね合わせて改めて30年のデフレを振り返ってみた。

チャイナ・デフレ

私は失われた30年は1990年のバブル崩壊による「バブル崩壊デフレ」と、2001年から始まった中国のWTO(世界貿易機関)加入に伴い全世界が一斉に中国へ進出したことによる「チャイナ・デフレ」との2つに分けるべきだと考えている。

図表3‒1一般労働者の名目賃金の推移

図表3‒2出生年別、大卒男性正社員の実質年収の変化

この時は私どものお客さまの製造業の会社が10社近く廃業に追い込まれた苦い経験が思いだされる。

「派遣切り」や新宿や川崎のアゼリア地下街のホームレスが話題になったのもこのころである。

そのころ日本と中国の1人当たりの賃金は10:1ともいわれていたが自由主義経済社会と共産主義社会とを隔てていたWTOの障壁が中国がWTOに加入したために、堤防が決壊したかのように資本が全世界から中国に流れ込み、日本もそれに飲み込まれるように、国内から中国へ生産拠点を移す企業が続出した。

図表3-1によれば、バブル崩壊デフレ時はまだ賃金は上昇していたが、それ以降(チャイナ・デフレ期)名目賃金は横ばいとなってしまっている。図表3-2はそのことをさらに明瞭に示していて2000年以後正社員になった人は年を追うごとに昇給額が先輩諸氏よりも明らかに下がっており、賃金が下がり続けていることが分かる珍しい図表である。

チャイナ・デフレは不可逆的

チャイナ・デフレ下では「中小企業を根こそぎ浚って賃金の安い中国へ」というのが偽らざる感想である。私どものお客さまがそうであったように、全国各地でモノづくり中小企業の廃業が相次いだだけではなく、生き残った中小企業の多くも外国企業に買収されたと聞いている。

しかも、追い打ちを掛けるように2008年にはリーマンショック、2011年には東日本大地震と幾重にも苦難が降りかかったのである。

したがって、賃金の低下は必然的なものであって、中国↑、日本↓で中国≒日本と均衡するまで日本の賃金は下がり続けるのが自然の理で、チャイナ・デフレは不可逆的で中国への流出の勢いが止まるまで続くと考えるのが妥当であろう。

希望の光「はやぶさ」

しかし、アメリカが中国の異様さに気が付き、トランプ大統領の時から中国デカップリングが始まり、ようやく、WTOという堤防崩壊による荒廃した経済社会の再生再建が始まる時が来た。

デカップリングの動きにつれて半導体工場の国内回帰が始まり、さらには、防衛産業の復活によりモノづくりへの期待も高まってきた。

先日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)名誉教授の的川泰宣先生の「『はやぶさ2』50億キロの旅」の講話を聴いて『はやぶさ2』が中小企業の技術の粋を集めてできたお話を聞き感動した。「はやぶさ」は無事故で50億キロの航海を成し遂げ、さらに余力を余し新たな探査の航海に旅立った。それを作り上げた日本のモノづくり技術の凄さの主役は全国に散らばる中小零細企業に働く技術のプロたちで、はやぶさプロジェクトのネットワークとして残っていると聞く。中小企業のモノづくり企業の再建再生に期待しよう。

 

 

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代表 小川 湧三

 

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