昭和51年のある衣料品卸問屋での出来事【Ⅰ-③】

エピソードⅠ  ❸

その一言が私の闘志に火を焚きつけた

ぜい昔話

「この会社内容や社長の性格から判断すると社長等は真面目であり、帳簿書類も良くできているので早めに調査終了しよう。特に重点的に確認した仕入には問題はなさそうだ。仕入資料をできるだけ作成し、税務資料として取引先の調査の際に活用させよう。もし、当社に問題があれば相手調査の過程で連絡、又は反面調査があるはずで、再調査すれば良い。」と判断し、税務署罫紙に住所、会社名、年月日、取引金額を記入していたところ、立会税理士が一言、「この猫の手も借りたい忙しい時期に、調査に来て資料取りですか?」と皮肉たっぷりの嫌味な発言をした。その一言は私も申し訳ないと気にしていたところもあり、若い私の闘争心に火を焚きつけるには十分な一言であった。

「本日は12月の忙しい貴重な時間を拝借して調査に協力いただきましてありがとうございます。ポイントとなる棚卸回転率(年間売上高÷棚卸資産)が同業者と比較して異常なので架空仕入の有無だけ検討すればよいと判断し、仕入について、十二分に調査していましたが問題ないと判断し、調査終了しようとしていました。だが、逆に棚卸回転率の異常原因は売上項目での問題ではないかと思われるので、ここから、売上の調査に移行します。」と宣言し、売上項目の調査に着手したのはもう既に午後3時を過ぎていた。

社長を同行し、師走でごった返している一階店舗へ急な木造階段を降りたところ、客がたくさんの商品入の籠を手にして並んでいた。レジ付近の様子が突然、視界に入ってきた。大変な混雑で、我先にと売れ筋の流行品を手にしたい客の多くは大声で店員に怒鳴り散らしていた。その状況を尻目にフラットファイルとパイロット3色ボールペンを手にして、「レジは混み合った日で1日何回位打ち込むのですか?」と質問しながらレジ近辺のものに注目していた。「この時期は少ないときでも150回から多いときで250回位打ち込みます。」と聞きながら、「レジの機械の上の書類の束はなんですか?」とさり気なく質問した。「ああ、うちのお客様は商売人でして、一般の個人消費者には、この問屋街一帯では販売してはいけない取り決めとなっているのです。そこで、売上取引先からの照会に資するため、相手先名・商品名・単価・数量・合計金額を記入した仕切書を一定期間とって置いているのです。また、白紙の未使用のものにもすべて100枚綴りで、かつ連番を印刷時点でお願いしてあるのでわかりやすいのです。」「なるほど、それは良いことです。連番を振って100枚綴にすることで、勝手に記入しておいて後で破棄するなどして、売上を誤魔化すことなんかできなくなるのですね。これは、素晴らしい。内部牽制ができているのですね。」とおだてながら、ついにやったぞ、なかなか容易には見つけられない現金売上に関する原始資料(バウチャー)を大量に見つけたと、心のなかでは小躍りしていた。

【これはラッキー! 真実の売上がわかる書類をみつけたぞ。あの一言に逆襲だ。】

▶︎▶︎▶︎ つづきは2021年(令和3年)8月号へ ▶︎▶︎▶︎

 

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