悪魔の囁き

暴落の前の天才現る?

会長

平成28年6月に安倍首相が消費税増税を延期してから政府の財源を心配していろいろな経済理論が発表されてきた。ヘリコプターマネー論、シムズ理論が一時盛んに議論されたがいつの間にか沈静化していた。

ところが、今年の初めからMMT(現代貨幣理論)が急速に広がってきた。MMTは世界最悪の財政状態にある日本の財政に対して、まだまだ財政赤字を増やしても大丈夫という非常に日本にとっては都合の良い経済理論である。日本経済にとっては奇跡の経済理論ともいえ、間髪を入れず、つい最近、MMT(現代貨幣理論)を『奇跡の経済教室』【基礎知識編】【戦略編】(中野剛志著)と紹介する著作まで出てきた。

ジョン・K・ガルブレイスの『バブルの物語』によれば、
◎暴落の前に天才がいる
◎輪を掛けた「テコ」の発見
◎何か新奇らしく見えるもの
などを過去の大暴落の研究を通じて「投機に関する共通事項」として挙げている。ガルブレイスのいう ”とり” の大天才が現れた感がするのである。

MMT(現代貨幣理論)

上杉素直氏はMMTを次のように紹介している。(7月30日付日本経済新聞『財政に「呪文」はいらない』

「蛇口をひねれば水が流れ出し、シンクに貯まっていく。やがてシンクが満たされると水は外部へ溢れ出す。時には排水溝から水が抜け、シンク内の水位が下がることもある――。

主要な通貨を発行する国は、過度なインフレにならない限り財政赤字が増えても問題ないとする学説「現代貨幣理論(MMT)」。今月、提唱者であるニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が来日し、お金を水に例えながら説いて見せた。

ケルトン氏の比喩では、水がたまるシンクが経済だ。政府を示す蛇口から出てくる水が財政出動で、排水溝から出ていってしまう水は税金を指す。経済を活気づけるには、財政をふかして、減税するほど良いことになる。シンクから水が溢れ出す現象をインフレになぞらえ、財政出動の限界を表しているのだという」

MMTに関するいろいろな解説をみたが上杉氏の上記の説明が一番理解しやすかったので引用させていただいた。

MMTにおける税の役割

私たちは、税は無産国家である国家がその財政需要を賄うために国民に負担をさせるもの、したがって、国民の義務として憲法に「納税の義務」として定められているのである、と教わってきた。

しかし、MMTでは「税は財源調達の手段ではありません」とし、「租税とは、国民経済を調整して、望ましい姿にする政策のために必要なものです」とし、景気調整や政策誘導の手段として考えているのである。

MMTにおける国債の役割

さらに、「政府がなぜ国債を発行するのかと言えば、それは金利を調整するためなのです。国債は、財源確保のためには必要がないが、金利を調節するためには必要なのです」とし、通貨発行権を独占する政府の間接的な通貨発行と考えられている。

現在の日本のように国債残高がいくらあろうと、いつでも通貨発行権を持つ政府は国債の償還に必要なだけ政府貨幣を発行し国債と変えればよい。だから、日本では財政破綻は起こらないという事なのである。

悪魔の囁き:国民はどうなる?

簡単にMMT(現代貨幣理論)を紹介したが、MMTは日本政府にとっては非常に都合の良い経済理論である。

国家は自国通貨を発行して財政を賄っている限り、支払いに充てることが可能である。国債という債務の形をとっていても、その返済に必要なのは、政府(または、その一機関である中央銀行)が無限に発行できる国家貨幣だからである。

財政赤字だけではどんなに赤字が大きくても財政破綻は生じないし、将来世代へ負担を転嫁しない。なぜなら、国家の財政支出は国民の財産・貯蓄となっているからという。

国民にとってもこんな都合の良い理論はない。税金は財源ではないので、欲しいものは打ち出の小づちを持った政府・政治家におねだり(要求)すればよい。政府・政治家は国民が求めるものであれば財政の制約なくお金を出してよいからだ。

本当だろうか?政府や権力者の欲望、国民の欲望は膨らみ出したらきりがない。MMTはブレーキのない暴走車のように見え、また、政府や権力者の意向によっては大きな政治的転換のキッカケにもなりかねない。私にはMMTは耳触りの良い悪魔の囁きに聞こえるのである。

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

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