AIとしごと

絶滅危惧業種

税理士業界がAI時代の絶滅危惧業種といわれて何年になるのであろうか。いま、手元にある資料によれば第8位に「税務申告書類作成者」が挙がっている。

エストニアでは電子国家になって税務申告は送られてくる書類にサインをすればよいだけといわれ、我が業界では見学ツアーが盛んである。

古くは1990年代にアメリカでクイックブックという会計ソフトが発表されて、税務申告の70%以上のクライアントが会計事務所から離れて一騒動になった事があったが、間もなく30%以上が会計事務所に戻ったと云われている。

以前にも書いたがエストニアの場合は税制がきわめてシンプルで日本のように複雑な税制を持つ国ではエストニアのようにはならない。

情報格差:情報の非対称性

税務調査においても税理士は重要な役割を担っている。納税者と専門職である税務署職員との知識の非対称性は覆い難くそのギャップを埋めるのが税理士の重要な役割であると認識している。

ITコーディネータという職業がある。経営者はITに疎く、IT技術者はシステムの対象となる経営に関する知識に疎い。プロと素人との情報・知識の非対称性:ギャップを埋める役割を担っているのがITコーディネータである。

同様にAIによって処理されることについてもその対象や処理する技術ついても技術は絶えず進歩していてユーザーの知識・技術に対する知識や経験とは計り知れないギャップがあり、その非対称性を埋めるには誰かに頼らざるを得ないのではなかろうか。

5G時代のAI

令和の時代は5G(第五世代移動通信システム)の幕開けとなる。5Gの通信に使用される電波帯の割り当てが行われたと報道されていた。

5Gについてはいま、中国のファーウェイを巡って米国と中国の間で国家の命運をかけた熾烈な戦いが行われているのはご承知のとおりである。

AIについてはプロの囲碁棋士がAIに負けたことで一躍その威力が有名になり、一般に知られるようになった。

5G時代になるとディープラーニングやビッグデータなど大量かつ高速の通信ができるようになり、仕事も生活も今まで経験したことのないほど変わるであろうと云われている。

AIにできないこと・もの

国民栄誉賞を受賞した稀代の天才棋士将棋といわれる羽生善治九段の「瞬間を生きる」という本を読んだ。珠玉の名言が満載のすばらしい本である。私が特に興味を引いたのは終章の「AI×人間」であった。氏のAIに対する考察がこれからのAIに対するヒントになればと考えその小見出しの一部を紹介する。

「AIに難しいのは局面の評価」「ディープラーニングの成果」「AIが指示するパトロール先」「AIもミスをする」「人間にとっては簡単だが、AIには苦手なこと」「AIが生み出す創造と人間の生みだす創造」、などなど、氏一流の鋭い考察でAIと人間の間合いを読み切っているようにみえる。AIにおびえる前にぜひ一読をお勧めする。

AIとこれからのしごと

AIによって仕事がなくなった人たちはすることがなくなった時間を何によって埋めるのであろうか。また、AIを駆使し、AIによって生み出した時間をもてあましている人たちはどうするのであろうか。人間は24時間を何かで埋めて生きている。仕事がなくなった時間をどうAIと折り合いをつけてどんな仕事の仕方をすればよいのであろうか。

安室奈美恵さんがNHKのインタビューに答えていたなかに、音楽のインターネット配信が流行り出した頃、どのような音楽活動をしていったらよいか迷っていたとき、時代の先端的な活動であるインターネット配信に背を向け聴衆と直接向き合うライブ・イベントに特化して音楽活動をすることを決心し大成功を収めて、平成の歌姫といわれるようになった。その分岐点における決断の経緯を話していた。

税理士事務所の仕事も納税者、経営者という人間を対象とした仕事である。「人間はどこまでも人間」であってAIや機械ではないのである。

人は24時間何かをしなければならない。AIや技術が進歩すればするほど情報格差や情報の非対称性も拡大していく。人間としての納税者、経営者に焦点を当て、共感を得られる仕事をしていけば、「仕事の仕組みや仕事のやり方は変わっても仕事はなくならない」と思っている。



税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

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