税と社会保障の一体改革②

国会の論戦を通じて

「税と社会保障の一体改革」については昨年 12 月号で述べたところであるが、国会の論戦を聞いているとおかしな議論をしているので重複気味だが二つ取り上げることにした。

一つは全額税負担による7万円基礎年金についてであり、もう一つは高齢者の預金を何とかして消費に回したいという議論についてである。

年金制度は税金投入ゼロに収斂(しゅうれん)する制度へ

前回、年金制度は 40 ~50 年の枠組みが必要と書いたが、民主党の7万円基礎年金も2065年に7万円の基礎年金を給付する制度だそうである。

今でさえ年金財政が破たんしかけているのに、年金制度を本来あるべき姿に戻すのではなく、現状の彌縫策(びほうさく)を 40 ~ 50 年先に合わせるとは全くそっぽな政策と言わざるを得ない。

年金はきわめてシンプル化して言えば、今月の年金積立額が 40 年後、50 年後に受け取る年金になるのであって、たとえば毎月国民年金の掛け金14980円(4月から実施)を積み立て40 年後に7万円を受け取るには別表のとおり3・95 %、45 年であれば約3・5%、50 年後であれば約3・15 %の運用利回りがあればよいことになる。

基本の枠組みが決まれば、あとは年金の諸条件が変わったときはどう調整するかを議論すればよいのである。その基本的な枠組みが決まって、それから現在の制度とのギャップをどう調整するか税金で穴埋めするのであれば、いくら不足か、給付を減額するか、税金で補てんするか、議論できるのであって、このようにすれば、たとえ税金で補てんするにしても、将来的には税金投入ゼロ負担に収斂していくのである。

現在提案されているように、全額税負担方式にするには7%も消費税を上げなければ制度が維持できないような制度はナンセンスで話にならない。

長寿社会はお金に働いて貰わなければならない社会

もう一つの議論は「高齢者の預金(金融資産)」についてである。金融資産の70 %は 65 歳以上の高齢者が持っていて、預金として眠っている。これをなんとか消費に振り向け内需拡大を図り経済成長を図りたいという趣旨の論調である。

私はこれはちょっとおかしい論議だと思う。高齢者は自立して生きてゆくためには今までの蓄積、すなわち金融資産に頼らざるを得ないのである。ゼロ金利の時代においてはお金が働いてくれないので元を取り崩していくしかないのである。その虎の子の預金を高齢者から取り上げるということは、長寿社会を否定するのと同じではなかろうか。

内需創造は国や金融機関の役割

高齢者の預金を内需拡大へ振り向けるのは、高齢者の役目ではなく、それは高齢者の預金を預かっている金融機関の役割である。国民の預金を有効に活かし産業を育成し内需拡大し、高齢者は利息を得て安心して暮らせる社会にすることが、国や金融機関の役割である。

そもそも、銀行システム、株式会社制度が日本に導入されたのは、小さなお金を集めて大きな仕事をする仕組みとして導入したものである。内需拡大の役割は国民のやる気を引出し、それを資金面で支える国や金融機関の仕事に他ならない。

バブル崩壊後金融機関は「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」のたとえではないが、萎縮してしまって金融機関の役割を果たしていないといっても差し支えない。

以前からイスラム金融に関心を持っていたが、イスラム金融は金利を禁止するコーランの教えに従って、金利はとらないが融資を申し込んだ者と事業計画を精査し、事業の成果の分配として資金提供の対価を受けるプロジェクト・ファイナンス的なものではないかと思う。

日本の金融機関も国民の創業意欲、起業意欲を引き出し、育成するような積極的な役割を果たしてほしいものである。


 

別表(国民年金掛金は4月から実施予定の金額):
運用コスト考慮しない単純福利計算

運用期間 40年 45年 50年
受取時年令 60歳 65歳 70歳
国民年金掛金 14,980円 14,980円 14,980円
必要運用利回り 3.95% 3.50% 3.15%
期間満了時金額 70,549円 70,441円 70,627円


税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三

 


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