ストックオプション課税の問題点

ストックオプションによる経済的利益の給付を給与所得とする最高裁裁判所の判決がでて大きく報道された。しかし、一、二審の判決要旨や新聞報道では判然としないものがあり、一律にストックオプション=給与所得と誤解されかねない。

現に、その後、行使期間が退職後10日以内とされたストックオプションについて、その経済的利益を退職所得とすることを認めたことが報道されていた。

ストックオプションとは

ストックオプションとは企業の関係者が企業から与えられた「一定期間に株式を買う権利」(株式購入権)をいう。権利を付与された者は権利行使価格を支払い株式を取得した後、市場で売却すればその差額を利益として受け取ることができる。

ストックオプションは企業が現金支出の負担を伴わずに役員や社員に高額の報酬を与えることのできる一挙両得の制度として上場企業に導入されてきた。

個別企業における新株引受権付与に伴う課税については今までも権利を付与された事情に応じて給与あるいは一時所得、雑所得等として課税されていたのである。

どこに最高裁まで争うような問題があったのであろうか。

外国法人の資金回収手段として利用されたストックオプション

今回問題となったストックオプションは、日本が個別企業課税制度をとっていることと米国が連結納税制度を採っている、この会社制度や課税制度の違いを利用して、米国本社が日本法人から資金を回収するスキームとして利用された可能性が高い。

今回給与所得として課税されたのは、当事務所で扱った事例から推測すれば、日本子会社が権利行使時に時価と権利行使価格との差額を負担していたと思われることである。

換言すれば、親会社である米国法人が自社株購入資金として負担すべき資金を日本法人に負担させ子会社である日本法人からの資金回収手段として利用したと推察されるのである。

判決の問題点

国際間の租税制度の違いを利用して税対策を行うことは日常茶飯事に行われていることである。したがって、日本とアメリカと会社制度や課税制度の違いを利用することも排除することはできないし、すべきことでもない。

問題の所在は、日本とアメリカの会社制度や企業課税制度の違いまたは日本の会社制度の遅れに伴う制度ギャップを、後追い的に改正されているが、解釈の変更を法律の改正や通達等により公表する以前に課税したこと、さらに租税法律主義に反する不利益変更となる遡及課税をしたと思われていることである。

この点は、今まで個別企業単位で判断することとしていたストックオプション課税を親子会社・連結対象会社間に及ぶことを明らかにして課税すべきであったと考える。

しかし、事実関係の中で子会社である日本法人が権利行使時の価格と行使価格との差額を負担していたことが明らかになっていれば、従来のストックオプション課税の範疇から外れ給与所得として課税されることは当然と考えられており、遡及課税と言う大きな問題となることはなかったと考えている。

判例要旨や報道ではこの点には触れておらず誤解を与えかねないと考える所以である。

(小川 湧三) 

 


神奈川県川崎市で税理士をお探しなら

LR小川会計グループ

経営者のパートナーとして中小企業の皆さまをサポートします


お問い合わせ