再び時価会計③
株価8000円割れ
3月8日、日経平均が8144円12銭とバブル後最安値(2002/11/14、8303円39銭)を更新し、3月11日には瞬間7862円43銭と8000円を大きく割り込み昭和58年3月以来の水準に下落した。デフレ脱却を、20日に発足する福井新日銀総裁に託そうとするこの時期に、強烈な先制パンチといわざるを得ない。
平成13年4月より取得原価主義から時価会計主義に変更された。これは、長期にわたるデフレの進行による資産価値の劣化を招き、資本の毀損が著しく企業のバランスシートが企業実態を反映しなくなったために、資産評価を取得原価から時価評価に変更しようとした為である。
しかし、前にも述べたとおり時価会計は会計制度の依って立つ根幹をゆるがすものであり会計制度の本質を崩壊させてしまうものであると考えている。
1929年大恐慌の教訓:時価会計の廃止
大恐慌前はアメリカでは時価会計が行われていた。以下「国債暴落:中公新書p.55」から引用する。
“「大恐慌に際して、商業銀行が価格変動リスクの大きい有価証券(株式)の保有によって実質自己資本を毀損し、その結果として金融機関の行う信用仲介機能が低下してしまった」という問題意識からグラススティーガル法が制定され、同時に会計面からも市場変動によって過度に企業経営が影響を受けるべきでないとの観点から、それまでの時価会計の方針が一転して取得原価主義へと移行している。すなわち、1930年代以降のアメリカの金融行政は、資産面で変動リスクの高いもの(株式)をまず排除し、その後、不可避的に保有せざるをえない国債については価格変動を抑制し、会計面からも時価会計から取得原価主義に戻すことによって銀行経営に影響が及びにくいものとした。”
時価会計は資産価格上昇期に導入されたもの
時価会計は、もともと企業利益の過大表示をどう是正するかというところから会計学上の論議があったのであるが、株主資本主義が強くなるにつれ、株価維持対策としての側面から資産価格上昇時において時価会計のもつ利益過大表示機能を利用するようになった。
すなわち、世界各国における時価会計の導入はゆるやかな資産価格上昇が長期化した後で導入されている。アメリカでは1993年に導入され株式バブルを加速させた。しかるに、日本ではデフレ・スパイラルが始まってから導入されたのである。
不況時の時価会計はデフレ・スパイラルを加速する
もとより今回の株価の下落は、アメリカの株式バブルの崩壊やイラク・北朝鮮問題を中心に国際政治環境が大きく影響していることは当然である。
しかし、ここ数年3月危機が懸念されるように、経営責任とは全く関係のない3月決算期末の株価が直接経営成績に反映され、株価の下落が利益の低下に直結し、それがさらに株価の下落を呼ぶこととなる。
このため、時価会計はデフレ下においては経営の不安定化をもたらしデフレ・スパイラルを加速させてしまうのである。アメリカの大恐慌の教訓にもあるようにデフレ脱却の手段の一つとして時価会計から取得原価主義に戻すべきである。
(小川 湧三)
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