信託の仕組み② 相続に備えた信託の活用

信託とは、「大切な財産」「信頼できる人」に託し、「大切な人や自分自身」のために、管理・運用してもらう制度です。「どういう目的で」財産を管理・運用するかは、自分自身で決めることができます。
今回は相続に備え活用できる「信託」について見ていきましょう。

1 遺言信託

(意思能力のあるうちに…)

信託銀行等が、遺言書作成の相談から、遺言書の保管、遺言の執行まで、相続に関する手続きを引き受けます。

□ 委託者:本人 ■ 受託者:信託銀行等

〇 手続きの流れ

〈相続開始前〉

① 遺言者が、事前に信託銀行等に相談
② 遺言者が、遺言書(公正証書遺言)を作成
③ 遺言者が、信託銀行等に遺言信託の申込みを行う

〈相続開始後〉

④ 委託者が亡くなったら、死亡通知人が受託者である信託銀行等に連絡
⑤ 信託銀行等は、相続人に遺言書を開示し、遺言執行を始める
⑥ 信託銀行等は、遺産の調査および財産目録の作成を行う
⑦ 相続人は、必要に応じて、所得税・相続税の申告・納税を行う
⑧ 信託銀行等は、遺産の名義変更、引き渡しなど遺言の執行を行う

2 受益者を連続して指定する

(意思能力のあるうちに…)

自分が亡くなった後の財産の承継先を複数の世代にわたって決めておくことができます。承継させたい財産を信託して、

① 自らが第一の受益者となる
② 本人の死亡により配偶者が第二の受益者となる
③ 配偶者の死亡により子が第三の受益者になる

というように、受益者の死亡により、受益者の死亡により次に指定する承継者に受益権が移るよう、財産の承継先を複数人決めることができます。

□ 委託者:本人 ■ 受託者:信託銀行等、親族、法人など
◇ 受益者:本人、配偶者、障がいを持つ家族、子どもなど

〇 手続きの流れ

〈相続開始前〉

① 委託者は、受託者に金銭や有価証券等を信託し、自らも受益者として利益を受取

〈相続開始後〉

② 第一受益者の死亡により、受益権が第二の受益者へ引き継がれる
③ 第二受益者の死亡により、受益権が第三の受益者へ引き継がれる

委託する財産により、遺言代用信託、生命保険信託、家族信託などの契約がありますが、同様の仕組みで、受益者の連続指定ができます。

3 後見制度支援信託

(認知症等になったら…)

法定成年後見制度あるいは未成年後見制度による支援を受けている方の財産管理面でバックアップするための信託です。委託する財産は金銭に限られています。信託契約の締結、一時金の交付等の手続きが家庭裁判所の指示書に基づいて行われるため、安全に本人の預貯金などを保全することができます。

□ 委託者◇ 受益者:成年後見制度または未成年後見制度の被後見人
■ 受託者:信託銀行等
※ 契約自体は法定代理人が行う

〇 手続きの流れ

① 家庭裁判所は、弁護士・司法書士などを後見人に選任する
② 家庭裁判所から発行される指示書に基づき信託銀行等の契約を締結する
③ 信託銀行等は、契約で定められた金額を定期的に後見人が管理する預貯金口座に振り込む
④ 医療費など多額の支出が必要な時は、一時金の交付を受けることができる
⑤ 本人の死亡、未成年の場合は成年に達した、預けた財産がなくなった場合に、信託契約は終了

生命保険信託

生命保険金の「受取人」「受け取り方」を指定し、保険金の請求や支払いを信託銀行に託すしくみとなっています。

受益者(受取人)は家族や親族に限定されないため、事実婚の配偶者や子ども、ペットの世話人などに残すことができます。

家族信託

家族信託では、不動産なども信託できます。先に名義を変えるため、その後認知症になっても、亡くなった後も影響を受けることなく、裁判所の監視下に置かれることなく、資産の管理・運用・処分をすることができます。また受託者も複数名指定できるため、受託者の万が一にも備えることができます。

「遺留分」侵害に注意

遺留分とは、配偶者や子ども等の法定相続人に最低限保障される遺産取得分で、「法定相続分」の半分と定められています。配偶者と子どもはそれぞれが、法定相続「1/2」の半分の「1/4」で、子どもが複数いる場合は「1/4」を人数で割ります。遺言や信託契約での受取額の内容が仮に遺留分を侵害する場合、遺留分を侵害された法定相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。その場合、認められれば侵害額に相当する金銭の支払いを行わなければなりません。

遺言書を作成する・信託契約を検討する段階で、相続人・受遺者を確認する他、財産目録を作成するなど相続財産の内容を確認した上で、遺留分を考慮して内容を決定しましょう。

まとめ

遺言では誰にどの財産を相続させるか決めることはできますが、その相続人が亡くなった後の指定をすることはできません。信託では、受益者の連続指定により、例えば子どもがいない場合に「自分が亡くなったら妻に財産を承継させ、妻が亡くなったら、自分の兄弟または甥や姪に財産を承継させる」といったように、代々受け継いだ財産を、意図せず他人に渡すことがないように決めることができます。

遺言は想いを伝える手段、信託は想いを円滑に承継させる契約として、元気なうちにどのような方法が自分に合っているか、検討してみてはいかがでしょうか。

 



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