牛刀をもって鶏を割く

牛刀をもって鶏を割く

「牛刀をもって鶏を割く」という成句は、「小さな鶏を割くのに、牛を切る大きな包丁を使う」意から、小さなことを処理するのに大げさな手段を用いること、また、取るに足らない小さなことを処理するのに、大掛かりなことをすることはないということ、の喩として用いられる。

10月から消費税のインボイス(適格請求書等保存)制度が開始し、24年1月から電子帳簿保存法が始まる。

インボイス方式の開始後は、インボイス制度を採用し、課税業者とならない「免税事業者等からの課税仕入れは原則として仕入税額控除の適用を受けることができません」と、免税事業者が取引のネットワークから除外されてしまうということで社会的な混乱を生み出している。

コロナ後急速に発達してきたSNSやユーチューバー、ブロガー、アフィリエイトなど、出前館、ウーバーイーツなどネットビジネスで新しく生まれてきた自営業の方々や個人タクシー業者から「どうしたらいい?」という質問がよせられているが、適切・明確な答えはできないでいる。

消費税は総額主義

一取引につき1円未満の消費税は端数処理されて切り捨てられることになっている。しかし、消費税を納税する事業者は、日々の記帳の有無に関係なく、年間の取引総額から逆算計算することにより、年間の消費税額を計算する。

したがって、一取引ごとに切り捨てられる消費税を0.5円(50銭)とし1日100人のお客さまだとすると50円、年間営業日数を300日とすると事業者は年間1万5千円の消費者から預からなかった消費税を超過納税することになるのである。

たかが50銭というなかれ、取引数が1日1,000人になれば15万円、1万人になれば150万円を超過納税することになる。

鉄道など旅客運送業者やデパート・スーパーマーケット・小売業者などの利用者(消費者)の年間取引総数は何十億取引にも達する。これらの企業が納付している超過消費税を計算すれば、免税業者への免税額などと比較にならない金額と推察する。

インボイス制度の欠陥

私は今回のインボイス制度の混乱は免税業者からの仕入れ等に係る消費税の控除を認めない、すなわち控除しない、控除できない。としたことだと考えている。

インボイス制度を利用して免税事業者制度を形骸化するもので、免税制度の本質・本旨をゆがめている。

10%、8%と消費税に複数税率を導入したために、税率区分が判るように税率区分を証憑に記載させる。この制度作りを否定するものではないが、インボイス制度に乗らない者が支払った消費税を控除しない、とする制度は筋違いの政策である。

前述したように、消費税は総額主義で計算しているのであって、消費者・事業者が消費税を意識すると否とにかかわらず支払った、あるいは、受け取った金額の中に「消費税が含まれている」ものとしている。

免税事業者は消費税を納税していないので消費税分は利益になっているという批判は承知しているが、消費税を納税しない分は利益または所得として法人税や所得税を納税しているのである。

インボイス制度を促進するには

「免税点の引き下げ」ですべて解決するものを『免税業者を「仕入税額控除制度」から排除する』というペナルティを課してDX時代に適応したインボイス制度を促進しようとすることは、申告納税制度導入時に青色申告制度という特典を与えて同制度の定着を図ってきた先人の政策とは真逆の政策である。

インボイス制度を定着させようとするならば、導入企業に青色申告控除のような特別控除を設ける優遇措置を考えることの方が妥当な政策と思える。

もう一つ、コンピュータの特質はデータをいかに細分化するかにある。インボイス制度を導入する業者は、一取引ごとの消費税を記帳計算し、日々の消費税額の合計で、その年間消費税額計算をすることができる、とすれば前述の超過消費税を解消することができ、実質企業負担の消費税は解消され、効果は絶大であろう。

インボイス制度に免税業者を排除する制度を導入したことは、「牛刀をもって鶏を割く」喩のごとく手段を間違えた政策と言わざるを得ない。

ましてや免税業者から課税業者への転換に伴う「隠れ増税」を意図しているのであれば正々堂々と「免税点の引き下げ」を訴えるのが正道であろう。

 

LR小川会計グループ
代表 小川 湧三

 

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