昭和59年化学品卸会社での出来事【Ⅱ-❸】

ぜい昔話 エピソードⅡ-❸

それは東京駅丸の内側での出来事であった

ぜい昔話

B法人(化学品卸会社)の調査に50代の法人特官と30代前半の私とが午前10時に東京駅の丸の内側の瀟灑なビルの一角の会社ドアを開いた。入口の女性に「麹町税務署のものですが本日10時の約束でお伺いしました。経理部長さんに連絡してください」と税務署の身分証明書を見せると、「お待ちしておりました。どうぞ会議室へ」と案内された。

すぐに、会社役員と思しき人物7名と税理士が順番に名刺を片手に自己紹介した。我々も身分証明書・質問検査証を呈示し、本日から3日間の日程で調査予定しておりますので、御協力をお願いします」と挨拶を交わした。着席した机の上には会社案内のパンフレットと会社組織図・会社商品等の説明資料が置かれていた。

社長が資料に従って会社の主な商品、仕入先、売上先、外注先、取引銀行などの会社概況を説明し、会社の各事業所の所在地、責任者、構成メンバー等の説明があった

すでに、午前11時を過ぎていた。経理・総務担当を残して主要役員が退出したところで、税理士へ決算修正仕訳の振替伝票綴を依頼して帳簿調査に着手した

新規自動車や資産購入・決算賞与の未払計上など決算日で高額な経費・資産計上を尻目に、内心これだけ多額の決算経費を計上しながら高所得をあげているのは何故なんだろうと考えながら利益調整の有無を検討すべきと思った。

そこで、期末決算修正仕訳の翌期受入処理をチェックしていたところ、多額の株式売却収入を発見し、関係資料を確認したところ、実際には調査事業年度で計上すべき譲渡所得であることが判明した。

なんだか簡単に非違事項を見つけられ、特官に内容を報告しながら、こういう時こそ、基本に帰るべきと考えた。主要な売上・仕入・外注費科目の元帳を眺めていたら、ハッとする取引が目に入ってきた

それは紛れもなく同一名称別法人の資料かと自分勝手に判断していた一枚の一般資料せんで見覚えのある名前の外注費取引であった

すぐに頭をフル回転させ、準備調査での一般資料せん(調査先で把握した取引資料・申告書の内訳明細書からの税務独自の資料)内容を思い浮かべた。300枚以上もある一般資料からその一枚が気になっていたのは調査法人への代金振込で、その住所が山奥の遠隔地であったからだ

しかも、その会社計上は外注費であって、売上ではないこれは怪しい。私の記憶違いではない。特官に小声で、今署に戻り、確認したい資料があり、当法人には夕方に戻るので相手に気づかれないようにしてほしいと伝えた。会社側に急用が生じ、私は一旦失礼しますと税理士に伝達し、会社を後にした。

調査先の規模を考えると、秘密裏に、(相手に気付かれないうちに、真実に辿りつけられるのか)早期の調査展開の必要を感じ、居ても立っても居られない自分を発見した。

署に戻り、資料確認を行ない、すぐに内容確認に赴いた。そして、事の大きさに圧倒されそうになり昼食すらとっていない自分に気づき、慌てたが時間はない。

まさか、東京駅付近の化学品卸会社でこのような調査展開になるとは想像もしていなかった。このことがあとで重要な判断・行動であり、巨額の不正計算の発見のドラマの端緒になるとは当の本人ですら、その時には気づいてはいなかった。

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