45歳定年と働き方

新浪氏の提唱

「45歳定年」問題に火を付けたのは、サントリーホールディングスの新浪剛史氏だ。9月上旬の経済同友会のセミナーで、新浪社長は「個人は会社に頼らない仕組みが必要」と述べ、45歳定年を提唱した(日経ヴェリタス2021年10月10日号)。

定年を60歳未満にしてはならないとする高年齢者雇用安定法があるため、現状では早期定年を制度化することは不可能だ。にもかかわらず、あらためて「45歳定年」という形で早期定年が提起された背景には、職務内容を限定しない日本型の「メンバーシップ型雇用」から、仕事内容を事前に定めた「ジョブ型雇用」へと、企業の人事に関する意識がシフトしつつあることがある。

日本で今でも続いている「メンバーシップ型雇用」は、労働意欲が高く、何でもやろうとする若い新入社員が大量に雇用できるという点に利点があった。中高年の管理職層の人数も少なく、貢献度合いと処遇のバランスをとる定年制度も機能していた。

しかし、少子高齢化社会の到来により社内人口構成が高齢化しつつあり、一括大量採用、社内選抜を経て、経営管理層に昇る終身雇用型制度が成立しなくなってきた。

「45歳定年」・識者の批判

「45歳定年」に関して独立行政法人 労働政策研究・研修機構の浜口氏は、「45歳定年は60歳定年およびその後の継続雇用と違うことを言っているようで、実は線引きの時期を早めているだけに過ぎない。重要なのは、多様な働き方をどう実現するかではなく、管理職を目指さない多様な働き方をどう実現するかだ」と主張する。

楽天証券経済研究所の山崎元氏は「45歳定年ではなく、むしろ『年齢差別である定年制度廃止』を提言したらよかった」と述べている。

企業は不要か

新浪氏は「会社に頼らない仕組みが必要」と言っているが、会社制度は資本主義社会の根幹をなす制度である。誰でも会社を経営し、あるいは、会社に雇用される、就職することができる。

終戦直後のように、職があれば、選択の余地がなく、その職に就き、仕事・スキルを身につけ、独立して会社を興す、あるいは、会社の中でマネジメント能力を身につけ、幅広い能力を身につけて「定年まで働ける」ことが喜びの時代があった。終身雇用・定年制という制度が出来上がってきた経緯である。

定年という考え方

しかし、浜口氏や山崎氏の指摘するように、法規・規則によって法制化された定年制は企業にとっても、働く側、特に企業に雇用されようとする若者にとっても「ミスマッチ」を起こしていると言わざるを得ない。

会社にとっても先ほど指摘されているように少子高齢化の波を受けて企業の労働資源におおきな「ゆがみ」が生じてきている。

一方、若者にとっても、1997年の銀行再編、山一證券の倒産に象徴されるように、大企業神話が崩壊することによって、将来の展望が消失してしまい、将来展望を描くことができなくなってしまったのである。

さらに、コロナ禍で特に顕著になったのはDX革命が進むなかで、働き方の先端を行く若者たちの働き方の変化である。

雑誌THEMIS(2月号)で、地方で働くスキルを学ぶセミナーが紹介されていたが、「WEBデザイン」「サイト制作」「ライティング」「ブログ運営」「アフィリエイト」「クラウドソーシング」などである。昭和世代では想像できない「しごと」が並んでいた。

浜口氏のいう「管理職を目指さない働き方」が生まれているのである。

変化に適応できる有期雇用制度を

労働法制の視点には多様な視点があると思うが、目まぐるしく変わる社会のニーズ、技術の変革を受け止め企業が個人に求めるもの、個人が企業に求めるもののギャップを定期的に見直すシステムを雇用関係の中に取込むことである。そのためには定年制を廃止し有期雇用契約制度を採用することが望ましい。

有期雇用制度を採用することによって一定期間経過後はあらたな技術やスキルを習得する機会を制度的に設けることは望ましいことと考える。

例えば業務レベルで初回3年、再契約5~10年、60歳以上1~5年、契約更新にあたって企業と従業員のギャップ調整と再教育・訓練項目の調整期間を契約期間に応じて定めることはどうであろうか。

変化する社会に対応し労働市場の流動性を確保しながら安定した雇用制度を確立していくためには有期雇用制へ転換する必要があると考える。

 

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 

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