インボイス制度の問題点について

今回の改正の趣旨は完全なヨーロッパ式一般消費税導入を目指すもので免税・簡易課税事業者の増税による排除と同時に、最終的には架空仕入・外注費などの架空経費の排除がその目的である。

1 登録制度の登録番号申請が開始

令和3年10月1日以降登録制度の登録番号申請が開始され、令和5年3月31日までにe-Taxで申請すると国税庁ホームページに①氏名・名称(法人の本店・主たる事務所の所在地)②登録番号③登録年月日(取消年月日、失効年月日等)が公表される。

「適格請求書発行事業者公表サイト」(令和3年10月1日運用開始)

郵送により提出する場合の送付先は各国税局のインボイス登録センターとなる。

適格請求書を交付しようとする課税事業者は、税務署長の登録をうけることができる。
(改正後の消法57の2①)

登録を受けるか受けないかは事業者の任意である。

登録事業者となる時期等により、登録申請の時期は次の通り

① 令和5年10月1日(施行日)から登録事業者になる場合

令和3年10月1日から令和5年3月31日までの期間中に登録申請書を提出する必要がある。
(平28改正法附則1八、44①)

なお、免税事業者が令和5年3月31日までに登録申請書を提出して令和5年10月1日から登録事業者となる場合には、同日から課税事業者となり、課税期間の開始日から9月30日までの間は免税事業者となる。

この場合には、課税事業者選択届出書の提出は要しないこととなる。
(平28改正法附則44④、インボイス通達5-1)

② 令和5年10月1日より後に開始する課税期間から登録事業者になる場合

適格請求書発行事業者の登録は、登録された日からその効力を有することになることから、課税期間の初日から登録事業者になるためには登録を受けようとする課税期間の前課税期間中に提出する必要があることとなる。

なお、免税事業者が登録を受ける場合には、登録を受けようとする課税期間の初日の1カ月前までに登録申請書を提出する必要があり、原則として課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になることが必要である。
(消法57の2②、消令70の2、インボイス通達2-1⑵)

③ 新たに課税資産の譲渡等を行う事業者に係る特例

新設法人等の新たに課税資産の譲渡等を行う事業者が事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を、事業を開始した日の属する期間の末日までに提出して登録を受けた場合には、その課税期間の初日に登録を受けたものとみなされる。
(改正後の消令70の4)

2 令和5年10月1日以降の適格請求書等保存方式

令和5年10月1日以降の適格請求書等保存方式(インボイス制度)の開始 登録事業者発行の適格請求書等だけが取引先では仕入控除が可能となる。

売り手が買い手に対して正確な適用税率・消費税額や登録番号を記載したインボイス発行を義務付けるとともに保存を仕入控除の要件となる。
(改正後の消法57の5一)

3 登録を受けていない登録番号のない事業者の請求書

登録を受けていない登録番号のない事業者の請求書は令和5年10月1日以降原則仕入控除が不可能となる。

免税事業者の問題点

①免税事業者はインボイスの交付ができなくなるので取引相手から排除される可能性がある。
②免税事業者からの仕入の多い業者は以前より、仕入控除が不可能となり、コストアップとなる。

※経過措置(仕入控除額)

① 令和5年10月~令和8年9月まで
 仕入税額相当額×80%

② 令和8年10月~令和11年9月まで
 仕入税額相当額×50%

4 適格請求書の記載事項等

適格請求書の記載事項等(消法57の4①)

① 発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

② 課税資産の譲渡等を行った年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行った課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)

③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)

④ 課税資産の譲渡等に係る税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率

⑤ 消費税額等

⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

なお、適格請求書とは、記載事項を満たす請求書、納品書その他これらに準ずる書類をいうが、記載事項の要件を満たしている限りにおいては、その名称は問わない。︎

また、①の書類により記載事項のすべてを満たす必要はなく、複数の書類で記載事項を満たす場合にも記載事項の要件を満たすこととなる。
(インボイス通達3-1)

5 インボイスと区分記載請求書との違い

① インボイスは適格請求書発行事業者として登録しなければ発行できない。
② インボイス発行の義務付
③ 消費税率・消費税額・適格請求書発行事業者の登録番号の記載の必要
④ 保存すべき書類の範囲に電子データが加わる。

6 適格簡易請求書の交付及びその記載事項等

⑴ 適格請求書発行事業者が、不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う事業

適格請求書発行事業者が、不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う事業の場合は、適格請求書の交付に代えて適格簡易請求書を交付することができる。
(改正後の消法57の2②、改正後の消令70の11)

適格簡易請求書の交付ができる事業

適格簡易請求書を交付が認められる事業の範囲は、次のとおりである。

①小売業 ②飲食業 ③写真業 ④旅行業 ⑤タクシー業 ⑥駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)⑦その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業

適格簡易請求書の記載事項等

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

② 課税資産の譲渡等を行った年月日

③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)

④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額

⑤ 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

⑵ 電磁的記録の提供

適格請求書発行事業者は、適格請求書又は適格簡易請求書の交付に代えて、これらの書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を適用することができる。
(改正後の消法57の4⑤)

⑶ 適格請求書に記載する消費税額等の端数処理

適格請求書の記載事項である消費税額等については、1の請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行うこととされている。
(改正後の消令70の10、インボイス通達3-12)

7 仕入税額控除の要件

⑴適格請求書等保存方式における仕入税額控除の要件

適格請求書等保存方式において、課税仕入に係る消費税額の控除をするためには、課税仕入に係る帳簿及び請求書等の保存が必要である。(改正後の消法30⑦)

この規定は、請求書等保存方式においても同じであるが、控除のための請求書等の内容が異なってくることとなる。(消法30⑨)

⑵ 請求書とは

仕入税額控除の要件となる請求書等とは次の書類が該当する。(改正後の消法30⑨)

適格請求書又は適格簡易請求書

適格請求書又は適格簡易請求書の記載事項に係る電磁的記録

適格請求書の記載事項が記載された仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類

(相手方の確認を受けたものに限り、書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を含む)

次の取引について、媒体又は取次にかかる業務を行う者が作成する一定の書類

(書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を含む)

① 卸売市場において出荷者から委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の販売

② 農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等が生産者(組合員等)から委託を受けて行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式によるものに限る)

(注)適格請求書等保存方式においては、免税事業者からの課税仕入は、免税事業者は適格請求書等の交付ができないことから仕入税額控除ができず、課税仕入を行った事業者のコストアップになることとなる(請求書等保存方式及び区分記載請求書等保存方式においては、免税事業者からの課税仕入についても仕入税額控除が可能である)

⑶ 帳簿のみの保存により仕入控除が認められる場合

請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる(改正後の消法30⑦かっこ書、改正後の消令49①、改正後の消規15の4)

① 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

② 適格簡易請求書の記載事項が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引
(①に該当するものを除く)

③ 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む事業者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入した古物

④ 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質物営業を営む事業者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得した質物

⑤ 宅地建物取引業営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む事業者の棚卸資産に該当するものに限る)の買い受けた建物

⑥ 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者事業者の棚卸資産に該当するものに限る)の買い受けた当該再生資源等

⑦ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

⑧ 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポスト差し出されたものに限る)

⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

⑷ 立替払いに係る適格請求書の保存の特例

課税事業者が、課税仕入に係る支払い対価の額につき、他の事業者に立替払いをしてもらった場合において、その請求書が立替払いをした事業者に交付された場合には、立替払いをした事業者から立替払いに係る適格請求書の写しの交付を受けるとともに、仕入税額控除に必要な事項が記載された明細書等の交付を受けてこれらを併せて保存することにより、適格請求書の保存があるものとして取り扱われる(インボイス通達4-2)

8 消費税額の計算方式等

⑴ 課税売上に係る消費税額の計算

適格請求書等保存方式における課税売上に係る消費税の計算方式は、次の通り。

【原則】

課税期間中の課税資産の譲渡等の税込金額の合計額に110分の100(軽減税率の対象となる場合は108分の100)を掛けて計算した課税標準額に7.8%(軽減税率の対象となる場合は6.24%)を掛けて算出する方式
総額割戻し方式:改正後の消法45①、インボイス通達3-13)

【特例】

交付した適格請求書又は適格簡易請求書の写し(電磁的記録により提供したものも含む)を保存している場合に、そこに記載された税率ごとの消費税額等の合計額に100分の78を乗じて算出する方式
適格請求書等積上げ方式:改正後の消法45⑤、改正後の消令62、インボイス通達3-13)

(注)適格簡易請求書を交付する場合において、「適用税率」のみを記載し、「消費税額等」の記載がない場合には、この特例計算を適用することはできないこととなる
(インボイス通達3-13(注)1)

⑵ 課税仕入に係る消費税額の計算

適格請求書等保存方式における課税仕入に係る消費税額の計算方式は、次の通り。

【原則】

交付された適格請求書などの請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入に係る部分の金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方式
請求書等積上げ方式:改正後の消法30①、改正後の消令46①、インボイス通達4-3)

【特例】

イ 特例その1

課税仕入の都度、課税仕入に係る支払い対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合は108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数が生じたときは、端数を切り捨て又は四捨五入した金額)を仮払消費税額等などとして帳簿に記載(計上)している場合には、その金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方式
帳簿積上げ方式:改正後の消法30①、改正後の消令46②、インボイス通達4-3)

なお、請求書等積上げ方式と帳簿積上げ方式との併用は可能である(インボイス通達4-3(注))

ロ 特例その2

課税期間中の課税仕入に係る支払い対価の額(税込の支払金額)を税率ごとに合計した金額に100分の7.8(軽減税率の対象となる場合は108分の6.24)を掛けて算出する方式
総額割戻し方式:改正後の消法30①、改正後の消令46③、インボイス通達4-3)

この特例は、課税売上に係る消費税額の計算についてその特例である適格請求書等積上げ方式を適用せず、原則計算(総額割戻し方式)を行っている場合に限って適用できることとされている
(改正後の消令46③)

9 総額表示制度

事業者が不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合には、譲渡対価について税込の金額表示することが必要とされているが(消法63)、この場合の価格の表示に関する特別措置が設けられていたが、この特別措置は令和3年3月31日限りで廃止された
(転嫁対策特別措置法10、附則2)

10 インボイス制度の評価・結論

結論から述べると、インボイス制度(適格請求書等保存方式)は令和5年10月1日から導入される。

免税事業者と簡易課税選択の事業者は、原則として、インボイス制度下では増税措置となる。

従って、免税事業者(前前年度の課税売上額1,000万円以下で課税事業者選択課税届出書を提出していない事業者)では、令和11年9月30日までの経過措置の期間は、原則として免税事業者の特典を大いに利用するほうが有利となる。しかしながら、取引先との関係も考慮すべきです。またコロナ下で政府の判断が突然に変更される場合もありうるので、できるだけ事業実態に応じた免税の特典を生かして慎重にゆっくりと選択すべきである。

 

お問い合わせ

神奈川県川崎市で税理士・社会保険労務士をお探しなら

LR小川会計グループ

経営者のパートナーとして中小企業の皆さまをサポートします