消費税軽減税率異説

会長消費税も頭の使いよう

「消費税も頭の使いよう」は文芸春秋平成28年3月号の塩野七生氏のエッセイのタイトルである。要点を抜粋し紹介したい。

「税金をどこにどれくらい払わせるかは、政治家にとっては最重要課題の一つである。…国の安全保障と同じで、立法と行政の双方真剣に取り組む価値は十分にある。

にもかかわらず、主食の米飯とおかずのコロッケの税率をめぐるチマチマした話を聞かされては絶望するしかない。その結果は明らかで、もはや相当な程度に国民を絶望させている。政治と政治家の矮小化のさらなる進行以外にはない。

政府も、それを助ける省庁も、またそれを法制化する義務を負っている国会議員も、選挙を視野に入れての対策などというケチな考えではなく、国家の根幹を決める仕事をしているのだという、気概をもってほしいと思うのは求めすぎであろうか。」
と氏は日本の消費税議論を慨嘆し、ローマの歴史から次のような提案をしている。

ローマの歴史から

「歴史に学べ、などとは言いたくない。だが昔の人には、次のような例もある。

古代のローマの消費税と言えば売上税と関税がプラスした率になるが、帝国の首都ローマでのそれが六パーセントでも、国境に沿って連なる軍団基地のある地方は、最高でも三パーセントだった。理由は、蛮族という仮想敵への最前線に位置することと、それへの対応策である軍事基地があることへの補償、であるのはもちろんだが、それだけではない。

ローマの軍団基地は必要な物資を周辺基地から購入することを義務づけられていたので、消費税を低く押さえることによって、その地方へのヒトとカネの導入を狙った策でもあったのだ。」
と、軽減税率の適用を全国一律ではなく地域エリアでの導入をしていた事実を紹介している。

氏から日本への提案

続けて、「このローマ人に学ぶとすれば、本土の消費税は十パーセントに上げても、沖縄は五パーセント。(中略)本土でも基地のある地方は、同じ理由で五パーセント。基地があるゆえに生ずる住民の不都合には、沖縄と同じに対処するのが国の政治である。

そして、消費税軽減策の本当の目的がヒトとカネの導入による活性化にある以上、これまた昔のローマ人が災害地で行っていた政策をまねて、東北三県もこの対象に入るのは当然だ。」と提案している。

消費税軽減税率異説

私がこの提案に注目したのは、今までの消費税議論の中に全くなかった視点があり、その視点が「日本全国一律」ではなく、地域エリア別に軽減するという発想が新鮮で日本にも十分適用しうるものと感じたからである。

もう一つ、軽減税率に対する目的に対する氏の視点が「格差是正」ではなく、「消費税軽減策の本当の目的はヒトとカネの導入による活性化にある」としている点にある。この二つの視点を取り入れればいま、安倍政権が取り組んでいる地方再生や地方活性化政策として検討したら面白いと感じている。

格差是正については、私は以前に数回にわたり税率を単一税率にしたままで「タックス・クレジット制度」の導入を提案している。

(※消費税について考える②タックス・クレジットカードの提案

地方活性化

テレビでオリンピックを控えて観光客の受け入れをどうするかを「民泊」をテーマに議論していたが、その中で旅館業法が全国一律に適用されている不都合さが取り上げられていた。

消費税についても「全国一律」が既成概念として定着していたため地域エリア別に税率を定めるという発想自体が新鮮であった。

たとえば、人口増加率でも良いし、高齢化率でもよいが、増加率であれば最下位から、高齢化率であれば年齢の高い方から五県については消費税率「ゼロ・パーセント」、六位から十五位までの県は消費税率を五パーセント、その他の県は標準税率とすることも面白いかもしれない。

氏が提案しているように軍事基地のある沖縄や災害被害地である東北三県、あるいは原子力発電所がある地域などにも軽減税率を導入することも地域の活性化になるであろう。

担当大臣まで置いて推進している地方の活性化について氏の提言は検討に値するものだ。「税は社会を変える」は私の持論の一つである。消費税率が「ゼロ」の地方があってもよいと思うのである。

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 


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