公的年金を考える

公的年金試算発表される

厚生労働省は6月3 日、公的年金の長期的な財政について見通しを発表した。一言で云えば公的年金は政府が平成 16 年 に「現役収入の50 %を保証する」と公約した年金制度が将来(平成 36 年度 以降)維持することが難 しいというものである。

私は年金についてこの欄でも何度も取り上げているが、年金制度は年金理論に基づいて制度設計がなされなければならないと思っている。公的年金は 20 歳に加入して 65 歳以降になって初めて受給できるもので、積み立ててから 45 年、 65 歳以降受 給が始まって平均余命 20年、八分の一生存の平均余命 35 歳を考慮すると約75 〜 80 年に及ぶ超長期の制度である。

これをその時々の政治 に左右されるのは国民にとって耐えがたいものである。

諸悪の根源

今のように年金制度が破綻する元凶は、1986年に行われたという「厚生年金保険の歴史を回顧する座談会」の記録にあるように(*)「年金の掛け金を直接持ってきて運営すれば、年金を払うのは先のことだから、今のうち、どんどん使ってしまっても構わない。使ってしまったら先行き困るのではないかと いう声もあったけれども、そんなことは問題ではない。

…将来みんなに支払う時に金が払えなく なったら賦課式にしてしまえばいいのだから、それまでの間にせっせと使ってしまえ」とそれまで積立方式で始まった公的年金制度を、将来のことは賦課方式にすればどうにでもなると、目先に積み上がったお金を、国民の大切な財産を預かっていると考えずに、あたかも自分のお金の如く使えるように、賦課方式に変更してしまったことに始まっている。

年金制度を考える視点

リー・クアンユー元首相は国民の自立を助ける制度として年金制度に類似する制度(CPF:中央積立基金)を作った。

このCPFは完全に自助の精神の貫かれたもので、住宅取得、医療保険等を包含するもので、基本的な考え方は「英国と スウェーデンの福祉コス トを見て、われわれは政府を弱体化するシステムを避けなければならないと思った。

福祉は自助の精神をひそかに害する」 「シンガポールは大きな税収が必要とされる福祉国家になり得る環境にない」「国民に愛国心とシ ンガポールの政治的安定 をもたらすためには世帯主をマイホーム所有者に して国民を自立させること、老後の生活を安定させることを考え、そのための制度としてCPF制度を作った」とのことである。

年金制度は冒頭にも述べたとおり超長期に及ぶものである。自分の老後は自分が責任を持つ自助の精神に貫かれたもので、その上で、補完的に 「共助」「公助」の精神に則った仕組みを構築すべきである。

改めるに憚ることなかれ

アベノミクスの課題は財政再建とデフレからの脱却である。財政再建は①増税②支出削減③経済成長による税収の自然増によらなければならない。財政悪化の直接の原因は社会保障費の増加であることは誰もが認めるところである。

したがって、社会保障費の一つである公的年金も世代間扶養の呪縛から離れて、国 民一人一人の自立を促すような制度へ転換しなければならない。

今すぐ転換したとして も、その恩恵を受けるのは65 歳受給開始とすれば45 年後である。年金の理屈は単純化してみると、20 歳の時の掛け金が 66 歳 の時に必要な金額になっているかどうかである。毎月の掛け金が 45 年後の毎月の生活を維持できる金額になっているように積み立てることができるかどうかである。

政府の役割は、個人で管理すれば使ってしまう積立を個人に代わって維持管理する仕組みを提供することである。公的年金制度は積立型に制度を変更し、何年以後は政府の財政負担はなくなります、といえるように制度を変更すべきであろう。

「改めるに 憚ることなかれ」である。
(※)(雑誌、文芸春秋 2004年5月号)

税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三

 


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