返済猶予法案

返済猶予法案がカタチをあらわし始めた

まさかと思った中小企業の借入金に対する返済猶予政策が中小企業金融円滑化法(案)としてまとまった。

10月10日の産経新聞によれば、その内容は「一年間の時限立法で、金融機関は中小企業などの借り手から申し込みを受け、返済猶予など『貸付条件の変更』を行う。」ということである。

テレビで対応していた大塚耕平副大臣は、頑なに『返済猶予』という言葉を使わずに『貸付条件の変更』という言葉に拘っていたのが印象深い。

この返済猶予法案に対して、金融機関や専門家の人たちから様々な批判が出ている。

①契約社会と自由主義社会の基盤を揺るがす
②銀行業務改善隻語を持ち出し預金者保護の観点を強調
③金融機関の体質の不透明化
④金融機関に対する国際マーケットの反応
⑤借り手の反応として交渉力がなく借入ができなくなる

 

などの反応も報道されていた。

このほっとタイムスが発行される頃には詳細も決まっていると思うが、もう少し私見を述べてみたい。

緊急時には輸血より失血を止めるのが先

お金はよく人体の血液に例えられる。私が『とりあえず6ヶ月の返済猶予を』と主張し始めたのは昨年の11月ごろからである。

リーマンショックのあおりを受けて、強大な直下型地震が来たように感じ、仕事がなくなる、先行きがわからない、などのお客さまの声に接して感じたのは、ケガをしたときの緊急時の対処に倣って先ず失血を止めること、緊急融資などの輸血は、先が見えてからで間に合うと感じたからであった。

お客さまの反応の多くは、「金融機関が『返済猶予』に応じてくれない」の一言で、金融機関は「金融庁の金融検査マニュアルで返済猶予すると、貸付条件変更にあたり貸し倒れ引き当ての積み増しをしなければならいので」とのことであった。

昨年の年末には金融庁から中小企業の実態を見極め適切な計画の下に返済猶予を認めるという趣旨の示達があったと聞いているが、金融機関の担当者に聞いてみると実際には「金融庁の検査を受けてみなければ結果はわからないので、安易に応じられない」ということであった。

実際、私の周りにいる中小企業の経営者の中では返済猶予を認められた人は極めて少ないのが実情である。

信越線の車窓から

高田の実家に帰るのに、久しぶりに長野新幹線経由で長野から高田まで各駅停車に乗った。妙高山山麓の急勾配を降りるのに、JRでは全国に一つしかないスイッチバックで下る二本木駅を通った。

通りながらふっと亀井大臣が提唱する中小企業に対する借入金の返済猶予もこのスイッチバックと同じではないかと感じた。

鉄道列車は急勾配の坂道を登り下りする時には、機関車を連結して動力を増したり、軽井沢峠のように歯車を噛み合わせたアプト式のように補助機材を使ったり、二本木のようにスイッチバック方のように勾配を水平にする方式でその運行を克服している。

船も水路を運行するに当たり流れの急な河川では色々な工夫がなされている。パナマ運河はその典型的な例で、閘門式を採用することでどんな小さな船でも82mの高低差を克服して大西 洋カリブ海から太平洋へ安心して通行できる仕組みになっている。

返済猶予の制度は中小企業対策として恒久的な制度へ

返済猶予政策は緊急融資政策と対をなす政策である。緊急融資政策は中小企業に対する輸血であるとすれば、返済猶予は借入金の返済という中小企業とっての失血を止めることである。

企業も汽車や船と同様で景気は絶えず変動しているが、大きな変動には企業の体力や資金力などによってその克服方法は様々である。しかし、体力の弱い中小企業には独力では乗り切れない大きな景気変動に対してスイッチバックや水路における閘門方式のように、システムや制度としてその救済対策方法が組み込まれることが必要である。

この度の亀井大臣の提案された「返済猶予」法案を作成するにあたり、失血を止める金融措置としての「返済猶予制度」と輸血にあたる「緊急融資制度」とをセットとした「中小企業金融円滑化法(案)」を時限立法ではなく恒久法として制定し、政令等でタイミングよく迅速に対応できるように整備することを望むものである。

税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川湧三

 


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