血の通わぬ「緊急保証制度」

融資の保証より、リスケジューリングの優先を望む

No118_15514959リーマン・ショックに象徴されるように、1929年に匹敵する株価の下落と金融システムの破綻で、ローンシステムの機能が麻痺してしまった。ローンに頼る米国の基幹産業である自動車産業は、40%をこえる急速な自動車販売の減速によりGMを筆頭とするビッグスリーの資金繰り悪化が表面化し、公的資金の導入を求めるまでに至った。

米国自動車市場の崩壊を受けてトヨタ・ホンダが真っ先にリストラを始め、今もソニーを筆頭とする国際優良企業といわれるグローバル企業でリストラが急速に広がり、国内景気・経営環境もつるべ落としに悪化しており、恐慌の始まりが始まろうとしている。

血の通わぬ緊急保証制度

このような急速な景気悪化を受けて、政府は緊急保証制度を打ち出した。この緊急保証制度は、1998年に実施された特別融資保証制度にならって打ち出されたものである。

特別融資保証制度は、初めてのこともあり、いくつかの欠陥を露呈した。その欠陥とは、景気悪化による資金繰り難を支援するにあたり追加融資をするというスキームを採ったことであった。

そのため金融機関は業績の悪い企業に対して一斉にこの制度を取引先に推奨し、自行の貸出をこの特別融資に貸し換える行動に出た。逆に比較的優良な企業には「後からでは借りられなくなりますよ」とこの制度による追加貸し出しを行った。

しかし、このスキームは売上の減少に苦しむ中小企業に「税金が原資の貸し出しだから」といってリスケジューリング(返済計画の見直し)を認めず厳しい返済を要求したため、かえって中小企業を不況の坂を後ろから押して転げ落ちる加速度をつけるようなところがあり、特別融資の返済に苦しむ企業が続出した。

羹に懲りて膾を吹く(※)金融機関

2面右下に杉田利雄氏の緊急保証制度を実施している窓口探訪記を抄訳掲載させていただいた。金融機関の対応を見ていると1998年の特別融資制度の対応において悪乗りしたり、BIS規制対応を急ぐあまり『貸し剥がし』や『貸し渋り』の批判に晒されたことや、融資の後に来る中小企業の苦境に懲りて、融資の斡旋を渋るなど「羹に懲りて膾を吹く」感がある。

実際われわれの身の回りでも各種の説明会や相談会が実施されているが、本当に助けて欲しい中小企業の役には立たない隔靴掻痒の思いを抱いている。

融資の保証よりもリスケジューリングを優先に

中小企業にとって望ましい資金繰り政策とはどんなものであろうか。売上が減って資金繰りが大変だというところへ、従前の借入の返済に充てるために追加貸し出しをするというのは麻薬を打って痛みを一時的に忘れさせるのとおなじでナンセンスである。

景気の急速な減速によって売上の減少が起きているときには支出の抑制を図るリスケジューリングによる返済額の軽減こそ景気停滞期における中小企業金融の正しい処方箋である。

併せて金融検査マニュアルの見直しを

しかし、現実はリスケジューリングを金融機関に申し入れると拒絶されたり、融資の引き上げを仄めかされたりする。理由は金融庁の金融検査マニュアルによって融資条件を変更すると不良債権と認定され引当を積まなければならなくなり収益が圧縮されるからと推察するのである。

100年に1度とも言われており、急激な後退に見舞われている中小企業への緊急対策を要する時機に、リスケジューリングを金融機関に逡巡させる制度は不適切な制度である。したがって、金融機関が緊急時の対応としてリスケジューリングに応じやすいように検査マニュアルの一部凍結等を望むものである。

積極的な要望や陳情活動を

中小企業団体傘下は、中小企業のために次の点の要望活動を行うように切望する。

一、現在の緊急保証制度の枠組みの中に5年間のリスケジューリングを含めること。
一、上記の施策の実施に当り、金融検査マニュアルによる債務者区分を従前のとおりとし、金融機関に債務者区分の変更による引当を要しないこととすること。

 

「羹に懲りて膾を吹く」とは
(あつものにこりてなますをふく)
一度の失敗にこりて度の過ぎた用心をするたとえ。

LRパートナーズ代表社員 小川 湧三

 


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