税制改正大綱の考察 相続税が変わる?

姑息な税制改正

No107_1527536平成 20 年度の自民党税制改正大綱が昨年発表された。 その中で税制改正の目玉の一つに中小企業の事業承継税制として、中小企業の株式を相続した時の納税猶予を認める制度を創設する( 21 年度改正)としている。

しかし、この納税猶予自体は目新しい制度ではなく、類似の制度として農地を相続税負担から護る制度として「農地等について相続税の納税猶予等」がある。

中小企業の相続税の納税猶予制度については別に譲ることとして、今回は、その中に盛り込まれていた 「相続税の遺産取得課税方式」を取り上げる。

相続税制度の基本である課税方式の改正を中小企業の事業承継制度の中に紛れ込ませるやり方は、一昨年の「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」制度導入の時と同様租税制度の基本的な事項を政策手段にすり替えるもので納得しがたいものである。

遺産取得課税制度の留意点

遺産取得課税方式は、相続財産の総額によって相続税額が異なる現在の制度とは異なり、相続人が相続した財産に応じて相続税を負担する制度で、他の相続人の相続財産には影響されず相続税が計算できるところにメ リットがある。

しかし、現在の法定相続分課税制度に比べれば、確実に総納税額が増加することになる。図を見れば解るように平均に相続するのが一番少なく て、相続財産にバラツキが出ると多い人と少ない人の税率の差が全体として増税となる。

基礎控除の計算方法も変わらざるを得ないし、現在の基礎控除額についても、既に引き下げて課税ベースの拡大を図りたいという意見が機会ある ごとに表明されているので、課税方式が変われば 当然見直しの対象となり縮減されるのではなかろうか。

留意しなければならな い点は前記の基礎控除のあり方と、税率構造がどう変わるか、相続税を譲渡所得の取得費に加算する制度は存続するかなどがあろう。相続対策がどう変わるかについて言えば、相続対策は早ければ早いほど良いと言える。

従って、相続対策の中心である贈与はより一層利用されるものと思われる。その意味では贈与税の在り方や税率の構造についても注目していかなければならない。

相続税特区の創設

相続税のあり方をどう 考えるかについては、面白い意見があったので紹介したい。それは「相続税の非課税特区」の創設を主張する意見である。

三原淳雄 氏が昨年出版した著書 「金持ちいじめは国を滅ぼす」(講談社+α 新書)のなかで“夕張市を「相続税ゼロ特区」にしよう”と財政破綻した夕張市の再建・活性化の施策として相続税の納税特区を設けたらどうかという提言をしている。

資産家の人たちが住むことによって、街は疲弊し荒廃したイメージでしかなかったものがゆったりとして落ち着いたイメージが湧いてくるが皆さんはどうでしょうか。

夕張市は 76万 3千平方メートル、ロック フェラー一族の居住区百 万㎡には比べものにならな いが信託制度を活用して一 家族千坪(3、300平方 メートル)くらいの敷地に まとめ定期借地権付きで提供し資産家百家族を誘致し てはどうだろうか。

都会に住む地方出身者 は「ふるさと納税」、 資産家は功成って故郷へ居を移し、ふる さとの活性化や繁栄に寄与する新しい循環ができるのではな いだろか。 増税の足音が 聞こえる 相続税制度の根幹 の論議となるべき 遺産取得課税方式 の検討を、中小企 業事業承継税制の 創設と絡ませて、 その中にそっと潜 り込ませるような やり方には賛成で きない。

そればかりではな く、政府の提言に対し、常に裏を読まなければならないのかというやり きれない気持ちにさせられてしまう のは取り越し苦労なのだろうか。遺産取得課税方式は現行の法定相続分課税方式に比べて増税になる。経済再建・改革遂行路線から財政再建・増税路線に転換し、 このような隠微な「エビで鯛を釣る」ような方法で増税路線を忍び込ませなければならないようでは「相続税ゼロ特区」の創設は夢のまた夢に過ぎないであろう。

 

平成20年度税制改正大綱

平成19年12月13日・自由民主党 <事業承継税制>  平成21年度税制改正において、取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度を創設する。この新しい事業承継税制の制度化に合わせて、相続税の課税方式をいわゆる遺産取得課税方式に改めること を検討する。

その際、格差の固定化の防止、老後扶養の社会化への対応等相続税を巡る今日的課題を踏まえ、相続税の総合的見直しを検討する。

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税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川湧三

 


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