姑息な税制改正

中小企業苛めの税制改正

税制改正は毎年あるが今年の税制改正は長く続いたデフレから漸く脱却しようといている何とはなしの明るさを帳消しにするような吃驚仰天の税制改正が織り込まれていた。

昨年の新会社法の成立で会社の設立が容易になり起業がしやすくなったと思っていたら、これに冷や水をかけるような税制改正(同族会社社長の役員報酬一部損金不参入)がちょっと気付きにくい組織再編税制の中に紛れ込んでいた。

損金不参入制度の概要

同族会社社長の役員報酬一部損金不参入制度の概要は「社長報酬の給与所得控除相当額を損金とは認めない」というものである。

なぜこのような改正案が出てきたかといえば、これは2006年5月政府税制調査会が所得税制に関する中期税制改正大綱の中で給与所得者の給与所得控除を二分の一に圧縮し所得税の課税ベースを拡大し増税する提案をし、大反発を受けたことにその遠因がある。

本来は給与所得者全体の給与所得控除額の改正で対応すべきものを真正面から中小企業税制のあり方や給与所得控除のあり方についての議論もせずに、新会社法の施行に便乗して小規模企業の課税を強化しようとすることは本末転倒と言わざるを得ない。

以前に個人事業と法人成り事業との課税格差を解消するため個人事業主に労働の対価分と資本の対価とに分け労働の対価に相当する分を給与とみなす「みなし事業主控除」を認め個人事業主の税負担の軽減を図った時と逆方向の思考である。

新会社法の趣旨に反する

三年前、デフレ不況の波を受けて廃業や倒産が新規開業を超える異常な状況を打開しようと資本金1円でも会社を設立できる最低資本金規制(株式会社1000万円、有限会社300万円)の特例措置を設けた。この特例措置を活用して誕生した企業が3万社を超えた。

この実績を受けて商法の会社編が全面的に改正される際に最低資本金制度も見直されて今年の5月から特例措置によらなくても1円株式会社が設立できることになっている。

今回の税制改正案はこの新会社法で節税目的の法人設立が容易になるので、あらかじめこれを防止することが目的だというのである。これは新会社法が新規創業で経済の活性化を図ろうとする意図に反する。

姑息な税制改正はやめよう

別表は最近決算が終わった会社について今度の改正がどの程度影響を受けるか試算したもので小規模企業ほど税負担率はきつくなる。左の決算概況報告にもあるとおり、昨年の「脱踊り場宣言」以来我々中小企業の実態はむしろ悪化しており、今度の増税のダメージは計り知れないものがある。

事業経営はもともとリスクの高いものである。ましてや新規創業となればなおさらリスクが高く新設企業の5年生存率は70%程度で30%もの企業が5年もたないのである。ましてやIPOやM&AでTAKE-OFFできる起業は数%にも満たない。

このような脆弱な小規模企業に対して支援こそすれ税負担を特別負わせる発想はどこから出てくるのであろうか。アメリカの中小企業税制のあり方が一つの参考になると思うので紹介しておきたい。

アメリカでも圧倒的に中小企業は多く、その中小企業の50%は一人会社、二人会社を含めると小規模会社の80%を占めるという。アメリカでは小規模会社について個人課税と法人課税を選択できる仕組みになっていて、これを「S corporations」制度という。

望ましい中小企業税制はどうあるべきか別途議論すべきはあるが、中小企業税制の選択肢の一つとして検討に値するのではなかろうか。

(小川 湧三)

 


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