時価会計②
漂流しはじめた企業会計制度
昨平成13年4月から取得原価主義から時価会計主義に変更された。これは長期にわたるデフレの進行による資産価値の劣化を招き、資本の毀損が著しく企業のバランスシートが企業実態を反映しなくなったために、資産評価を取得原価から時価評価に変更しようとした為である。
しかし、会計制度の前提となる公準は
①企業実態があること
②ゴーイング・コンサーン(事業活動の継続性)を前提とすること
③検証に合致しうる価値測定ができること
の三つである。時価会計主義はこの②と③の会計制度の依って立つ根幹をゆるがすものであり会計制度の本質を揺るがす転換であると考えている。
財務諸表の役割
財務諸表はいうまでもなく、企業の財政状態と経営成績を利害関係者に報告・提供するものである。ペイトン教授は「すべての利害関係者に合致するものではなく利害関係者のそれぞれの立場に応じて修正ないし補正をして判断の資料とするものであることは周知のことである。
したがって、財務諸表はもっとも有利な状況のもとのあっても、暫定的なものに過ぎない。貸借対照表の重要数字は「継続性の仮定」に従って作成されたものである。
企業の完全な姿は、最終の清算に先立っては、まず完全に見分けがたい。」と貸借対照表の役割について述べている。しかし、時価会計制度はこの貸借対照表の役割として「完全に見分けがつけがたい」企業の最終清算価値を表示させようとするものである。
企業価値を何で測るか
また、同教授は「企業の価値の重要な基礎は―原価価格、取替価格あるいは清算価格ではなく―実に収益力なのである。」と述べ、企業の継続性(ゴーイング・コンサーン)を前提として企業価値を収益力に求めている。
しかし、時価会計制度は企業の最終清算価値を表示することとしたため、財務諸表だけでは企業の継続性や企業価値を判断できなくなってしまった。このため、企業の継続性を測るため「キャッシュフロー計算」や、収益の源泉を「ブランド価値」に求めざるをえない状況になってきた。
精緻を求めて目的を見失う
時価会計はもともと企業利益の過大表示をどう是正するかというところから生じたものであるが、逆に精緻を求めて目的を見失ってしまった。
いまゴーイング・コンサーンとしての企業価値を「キャッシュフロー」や「ブランド」に求めるようになったが、これらは従来から「資金繰り」として、また企業の超過収益力の源泉としての「暖簾」の評価など経営判断の補助的な手段として使われてきたものである。
このように時価会計は企業会計制度を複雑にし、財務諸表を企業の実態から遊離させてしまった。
また、不良債権問題に重点をおくあまり、企業の大小を問わず「完全に見分けがたい企業の清算価値」が融資審査の中心となった。
このため、このデフレ下においては企業の継続的な経営を目的として、資金を供給するよりも資金の回収になりやすく、経営の不安定化をもたらしデフレスパイラルを加速させかねない。インフレにもデフレにも中立な会計制度が望まれる。
(小川 湧三)
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