時価会計
会計原則の大転換
時価会計の導入は企業会計原則におけるB/S(貸借対照表)の役割の転換である。B/Sはゴーイングコンサーンを前提とした原価の現在と未来への配分機能から企業の清算やM&Aを前提とした企業の現在価値を表示する機能への転換を意味する。
時価会計への転換は他の会計制度にも大きな影響を与える。連結会計制度、税効果会計制度、退職給付会計制度、キャッシュフロー計算書の制度化もこの「企業の現在価値表示」という時価会計の流れの中にあるものである。
インフレ時の時価会計とデフレ時の時価会計
時価会計制度への主張は、主としてインフレ時において利益が過大表示され租税や配当等が名目利益に対してなされるため必要な投下資本の回収が十分にできないところから会計論争があった。
デフレ時の時価会計への主張は、インフレ時とは違ってデフレによる資産の劣化が反映されないという意味での利益の過大表示が顕著になったからである。また、企業法制の整備により企業の買収、統合・分割が容易になり、絶えず企業の現在価値を把握していかなければならない環境が生れてきているのもその一因であろう。
日本型含み益経営から欧米型含み益経営へ
故渡辺美智雄はバブル潰しのため融資の総量規制を実施しした時に「日本の経済は全部含み益で成り立っているんだから、含み益がなくなったら、日本経済は消えてなくなるんだ」という趣旨のことをいったといわれる。
時価会計はその日本型含み益経営からの決別である。では、欧米に含み益はないのかといえば、日本型のB/S上の資産含み益はない。
しかし、欧米型の含み益はP/L上で経費処理されたものの中に隠されている。この新しい含み益は一言でいえば「ブランド力」である。経費処理されている研究開発費や販売ネット網、ビジネスモデルの開発費などで築き上げたシステムや企業イメージという無形のものである。
間接金融から直接金融へ
もうひとつ、日本型含み益経営と欧米型含み益経営の大きな違いは資金調達方法の違いである。日本型はB/S上の資産含み益が中心であるため、レバレッジ効果が大きい借入金による間接調達が有利であった。
欧米型はP/L中心であるため株式の公募等による直接金融による資本調達が必須要件であることである。このためキャッシュフロー・マネジメントが重要な管理ツールとなっている。
時価会計は経済政策、経営政策の不安定性を増幅させる
時価会計では資産価格が期末の時点で評価が行われるため、期末を迎えるまで企業の成績がわからない状態になる。また、株価のようにB/S上の資産価格がが経営責任の及ばないところで決定されるためデフレ・スパイラル、インフレ・プッシュが起き易くなり、時価会計は経済や経営の不安定性を今まで以上に増幅させるものと思われる。
(小川 湧三)
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