地価上昇率と経済成長率

8月に相続税評価のための路線価が発表され、一時止まるかと思われた地価の下落傾向が止まらず10年にわたる地価下落が続いています。長い景気低迷と上場企業の倒産が続く中、地価上昇率と経済成長率との関係について名古屋市立大学櫻川昌哉助教授の興味ある論文「地価と経済成長」が日本経済新聞に発表されました。

「地価と経済成長」の論旨(全文はLR3541号)

論旨を簡単に整理すると、

地価上昇率と経済成長率は高い正の相関関係にある。

地価上昇率と経済成長率との関係は相互に関係し合っており、経済成長率→地価上昇率という「生産性ルート」と、地価上昇率→経済成長率という「土地担保ルート」の二つの因果関係に整理できる。

生産性ルートは、将来の予想経済成長率が上昇すると、それに応じて今期の地価上昇率が増加し、経済成長率の鈍化は、地価上昇率を引き下げ、銀行の信用収縮を通じて経済成長率をさらに鈍化させる。

土地担保ルートでは、地価の上昇によって生じた担保資産の価値の上昇が、企業の借入限度を増加させ、設備投資、そして景気そのものを刺激する。

地価下落を抑えるためには2%程度の経済成長率が必要で、地価を安定させるには、3-4%の経済成長率が必要である。

地価上昇率は銀行貸出がどれだけスムーズになされているかのバロメーターで、地価が下落している局面では、日銀が金融緩和政策でベースマネーをいくら供給しても、景気が回復しなくても不思議ではない。

地価が安定しなければ景気の本格的な回復はない。

バブルがはじけたときから地価が安定しなければ景気回復はないと感じていた。最初は上がり方が激しかったから、奇跡的に早ければ3年、普通で5年、最悪でも7年もすれば、安定するのではないかと思っていたけれども、まだ底が見えない。

論文の論旨に従って現状を見れば資産デフレスパイラルに入っており、地価が下がり続けている間は、不良債権問題が解決しないし、金融機関の信用創造機能が働かないので景気回復が長引くことを示唆している。手許にある資料でも銀行貸出率もずっとマイナスになっていて中小企業金融が非常に厳しい状況にあることは言うまでもない。

資産(国富)ベースでみれば経済成長率はマイナス40%?

GDPとその成長率、経済成長率はその年度中のフローの概念で把握しているけれども、本来は期末財産合計と期首財産合計の差額と期間中の消費支出額がその期間中の経済的価値の合計額である。

この企業会計の考え方からすれば、過去10年間の地価の下落によって失われた国富は1300兆円とも言われている。株価の下落によって失われた国富をも考慮すれば優に2000兆円の国富が失われたことになる。

10年間のGDPが約5500兆円とすれば何と40%もの国富が失われGDP成長率はマイナス40%にも達していたことになる。土地担保主義を中心とする金融システムを安定させるためには、決して地価を下落させないことが必要である。

株価対策としてはPKOがとられたが、土地に対してはなんら抜本的な対策がとられることなく放置されてきた。地価を中心とし資産デフレ対策が求められる所以である。

 

(小川 湧三)


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