予兆

2つの予兆

◯イギリスで首相就任からわずか45日でトラス首相が辞任に

◯日本政府は9月のFRBの金利引き上げを機に進んだ円安に、145円をめぐり為替介入を実施したが、効果は極めて限定的であった

イギリス:トラス前首相45日

イギリスでは首相就任からわずか45日でトラス首相が辞任に追い込まれた。

法人税の引き上げ凍結、所得税最高税率引下げなどの減税、エネルギー価格の高騰で困っている庶民むけには、一般家庭での光熱費の上限補償など5年で総額25兆円に上るばらまき型政策を掲げてスタートした。

しかし、国家財政の破綻を心配したイギリス国民・市場の反発を受け、ポンド売り、イギリス資産売りを招き大幅なポンド安とイギリス国債の金利上昇を招いた。

ひるがえって我が国を見てみよう。効果も薄いのに長年放漫財政を続け、政府債務は歴史的高水準に達しているのに、与野党を含め多くの議員が減税やバラマキを主張し、多くの国民も歓迎する。

つまり、英国民が大反対したトラス首相の政策を、英国よりもはるかに財政状況の悪い日本で国民がのうのうと受け入れている。

われわれ日本人も国家財政が直近か将来かにせよ、税負担として自らに返ってくることを認識し、目先のカネではない長期的な視野を持って政府に働き掛けないと、取り返しがつかないことになる。(※)

タイタニック号衝突の予兆

雑誌、「文芸春秋」令和3年11月号に現職財務省事務次官が「日本の財政状況を心配して「財務次官モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」という記事を書き「タイタニック号の喩で言えば、衝突するまでの距離はわからないけれど、日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです」「この破滅的な衝突を避けるには「不都合な真実」をきちんと直視し先送りすることなく、最も賢明なやり方で対処していかなければなりません。」「そうしなければ、将来必ず、財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかかってきます。」と寄稿している。

コロナ禍もあって日本は税収を超える膨大な財政支出を行っている。

さらに急速な円安による輸入資源の高騰による輸入インフレの兆候が顕著になってきた。

トラス首相の政策に対する市場の反応は、やがて日本に向かってくる。日本の政策への嫌な予兆と映る。

名ばかりの為替介入

一方、日本ではFRBの金利引き上げを機に進んだ円安に、145円をめぐり為替介入を実施した。24年ぶりに実施した一連の介入額は約9兆円超に上ったとのことである。統計開始以来過去(4.8兆円)最大の介入を試みたが、介入直後に元に戻り介入効果は極めて限定的で、マーケットでは、ジェスチャーに過ぎないと取られたのではなかろうか。

思い起こす「暗黒の水曜日」

名ばかりの為替介入で思い出すのは1992年6月に起きたイギリス・ポンドの暴落によりイギリスがERM(欧州為替相場メカニズム)から離脱した事件である。ジョージ・ソロス氏は1992年6月16日イギリス・ポンドを暴落させた。

実勢と乖離したポンドに投機を仕掛けてポンドを売り崩し、イギリスにERMから離脱を余儀なくさせジョージ・ソロス氏を一躍有名にした事件である。

「弱り目に祟り目」という諺があるが、ハゲタカのような人々が密かに日本を狙っているのは周知の事実、日本に降りかかる試練を好機と捉えてさらなる円売り圧力をかけてくる恐れはなしとしない。一瞬にして潰えたイギリスのポンドのように。

予兆

10月21日の5.5兆円の介入はかつてない大規模介入のようであった。

しかし、何事もなかったかのように為替市場は元に戻ってしまったのである。日本は世界の協調を得られない単独介入を強いられており、世界中の中央銀行がFRBの利上げに追従しているなか日本銀行だけがただ一行「ゼロ金利政策」を続け、国債の暴落を防いでいるのである。

コロナ禍で物流・人流が途絶え、米中イデオロギー対立が鮮明になっている中、ウクライナ戦争がはじまり、以前のグローバル経済へ戻れなくなり、資源のない脆弱な経済体質になった日本を象徴する円安は国力の反映で、今回の為替介入の無力さのシグナルは、投機筋の格好のターゲットとなり「暗黒の水曜日」再来の予兆のように思える。

来年は波乱の年か。

 (※)10月26日付 日本経済新聞「大機小機」より 一部引用

 

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代表 小川 湧三

 

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