昭和59年化学品卸会社での出来事【Ⅱ-❷】

ぜい昔話  エピソードⅡ-❷

それは東京駅皇居側での出来事であった

そんな得体の知れない怪物が動きだしそうな予感を感じさせる昭和59年、突如法人特官(指定の管理職と非指定の叩き上げがある)に指令された法人税調査事案が東京駅の丸の内側の瀟灑なビルの一角の化学品卸会社であった。

その当時、丸の内は某村と称されるぐらい、大手町に向かってそのグループ会社の集団で溢れていた。税務調査では申告是認(非違事項なし)が大半であり、その地域の調査は嫌われており、調査選定すら珍しかった。麹町税務署(千代田区のうち、神田地区を除く)は全国の税務署の中でも、一番格上の署であり、管内には皇居があった。その法人会は全国でも珍しく、丸の内地区とそれ以外の2つに分かれており、丸の内法人会員はプライドが高く、他と一線を画していた。

㋚(査察)出身の叩き上げ特官と新米調査官との調査事案ではあるが、その当時は調査官が調査の大部分を行っていた。部下は黙って従っていろ、文句は言うなという、全く時代錯誤な時代であった。

調査指令をうけて、B法人(化学品卸会社)の課税ファイルと税歴表から準備調査にとりかかった。B版の準備調査表に過去5年間の法人税申告書から損益計算書・貸借対照表の主要項目・その他参考事項を記入しながら、すべての数字が上昇傾向にあった。主たる不正想定として、利益操作を上げた。

会社組織図を過去の資料から作成したが、ワンマンの同族会社ではなかった。株主、役員等の報酬・賞与・配当・賃借料等から人・もの・金の流れを時系列に観察したが特にこれと言った特異性は発見できなかった。預金・売掛金・未払金・買掛金の残高一覧表を作成し、会社概況を頭の中に叩き込むと過去の税務調査の状況(3年前の特官調査では是認処理➡調査非違事項なし)・国税独自の取引資料せん特別資料と一般資料がある)の整理を行った。特殊資料せん(赤資料は重要資料といわれ、主に売上除外などの不正計算が見込まれる資料・青資料は預金等の資金資料で公表簿外預金など不正計算に結びつく預金取引資料)は何もなく、売上高階級(高・中・低に区分)で、有所得であるため3年目ごとの周期該当の調査選定と思料された。

だが、その時には気づかなかった300枚ほどの大量にあった一般資料の一枚の資料が巨額の不正計算の発見ドラマの端緒となるとは想像すらしていなかった。

『ああ、またもや過少申告の非違を探す申告是認対象の調査事案か、売上が高階級だから特官と2人での連続3日間の調査で十分だな』と呟きながら担当税理士に事前通知を行い、3月下旬の月曜日から3日間の法人税同時調査の日程調整を行った。

実地調査予定日を記入して、担当特官へ準備調査表・申告書5年分が入った赤青表紙の課税ファイル・税歴表(直前1カ年の法人税申告書・消費税申告書・過去3年の源泉所得税の納付状況・一般資料せん)を手渡した。『特に問題はなさそうだな』と担当特官は書類を改め、担当者の私に捺印の上、返却した。その時、住宅地図を取りながら、次の別の事案を考えている自分を発見するのであった。

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