財政破綻は起きるはずはない?


日本経済新聞の記事から

2月19日付の日本経済新聞「大機小機」に興味深い、しかし深刻な記事が掲載されていた(ゴシック体は記事引用)。

「永田町でMMT(現代貨幣理論)が流行している。国債をいくら出しても大丈夫だ、と与党の政治家が公然と議論している。

政治家が「財政破綻はあるはずないからいくら金を使っても大丈夫だ」という姿には「北朝鮮が攻めてくるはずはないから自衛隊は遊んでていい」という主張と同じくらい違和感を持つ。…

新型コロナウイルス対策や経済成長のためにいま必要な財政支出まで止めてはならず、すぐに財政を引き締めるべきではない。しかし世代を超えた時間軸では財政の持続性の確保は必要だ。」

「異変の前に天才が現われる」

ジョン・K・ガルブレイス氏はその著書「バブルの物語」の中で「暴落の前に金融の天才がいる」と言っているが、MMT(現代貨幣理論)が発表されたとき、まさに「暴落の前に天才が現われた」と感じたのである。以後MMTに関する本をすべてとは言わないが公刊された著書をあらかた目を通してきたつもりでいるが、私が理解している「租税国家論」としっくり合わないのである。

2019年某月某日短い時間だったがステファニー・ケルトン教授のMMTの講義を直接聞く機会があった。「自国通貨で発行される国債はいくら発行しても問題はない。インフレになったら租税の調整機能を活かして租税を徴収すればよい。財政破綻(デフォルト)は起こらない」と。

確かに敗戦直後の昭和21年においても日本は国債のデフォルトを行ったわけではない。当時の渋沢蔵相が「払うものは払う。一度死んだと思って相続税を払うつもりで税金(財産税)を払ってもらう」ということで預金封鎖、ペイオフも実施し、財産税を徴収した。

政府に求められる危機管理能力

財政破綻への備えは大地震や戦争への備えと同じく危機管理である。

国民や企業が「財政破綻など起きない」と思えるようになるには「政府は十分に慎重な財政運営により財政の持続性を確保している」と信じてもらうことが必要だ。さらに「財政破綻という非現実的な危機に対してもきちんと備えができている」と政治家は国民に示さなければならない。ただ、「財政破綻は起きるはずはない」というだけでは、政治家が国民を子供扱いしているだけで、危機を防ぐ意志と能力があると示したことにはならないのである。

「ブラック・スワン」現る?

FRB議長は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0・25%の利上げを明言した(3月2日付)。異次元緩和からの出口を見いだせない日銀との金融政策の格差が顕著になり、日米金利差の上昇とともに、9月末ごろまでに1ドル=120円を窺がうとの予想も出ている。(※)

さらに、ロシアのウクライナ侵攻という核大国による侵略戦争が始まった。「SWIFT」からはじき出されることによる国際貿易の混乱・停滞など経済的打撃は甚大で、我が国の経済や財政にどのような影響を及ぼすか予断を許さないのである。

財政破綻はあるとして行動しよう

日本の財政破綻は中国の不動産暴落と世界の二大テールリスクと認識されている。テールリスクは起きる可能性は小さいが、起きたら大惨事をもたらす。日本の財政はコロナウイルスの蔓延で、後戻りができないほどの新規国債発行を余儀なくされ、財政再建の可能性が断たれた。

雑誌「文芸春秋」昨年11月号に掲載された現職財務次官の「日本は氷山に向かって突進している」という内容の記事はその象徴であろう。

私たち国民は財政破綻の有無の議論に一喜一憂するのではなく、東日本大震災からの教訓でもあるが、「X-DAY」に備えて行動しよう。

東日本大地震からの教訓

◉起きるかどうかを考えるのはナンセンス。「発生する」ことを前提に準備すべし。
◉いつ発生するかを論じることもナンセンス。「今日それが起こる」ものとして準備を始めるのが良い。
◉どの程度の規模になるのかを考えることはある程度必要、とはいえ「自分が対応できる範囲内で頑張る」のが現実的。
◉したがって、できるだけ、気合を入れずに、楽に、今のリズムを崩さずに準備することが大切。
また、NHK:「逆転人生」東日本大地震で壊滅的打撃から再生した八木澤商店からの教訓としては「少しでも良いから、資産を日本国内から海外に出しておこう」である。

※原稿執筆時 3月初旬、3月22日時点 1ドル=121円

 



 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 

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