新税誕生前夜

日本経済新聞の記事から

『財源困窮、100年前と相似』

税制の大転換は、戦争や技術革新など経済構造の変化とセットで起こる。

今の国際課税の原型ができたのは第1次世界大戦後だった。各国は復興財源に窮する一方、通信技術の発達やグローバル化する企業活動への対応を迫られていた。結果、工場などの拠点に網をかける「恒久的施設なくして課税なし」という現在に至る法人税の原則が生まれた。

それから約1世紀。新型コロナウイルス下の世界で約140カ国・地域が国際課税ルールを見直す交渉を進めている。米グーグルや米アップルといった巨大IT(情報技術)企業を念頭に置くデジタル課税や法人税の最低税率などがテーマだ。危機対応の財源確保を迫られている事情もある。

各国が企業に対し、我先に税を課す光景も百年を隔てて繰り返されている。第1次世界大戦後、欧州諸国は戦時利得税などを競って引き上げた。今日、フランスや英国、インド、トルコ、ケニアなど約40カ国が巨大IT企業への独自課税に走る。(以下略)日本経済新聞(6/11)『財源困窮、100年前と相似危機が促す税制転換』

財源の枯渇

コロナウイルス対策としてわずか1年で第2次世界大戦の戦費を超える財政支出が行われた。これらの支出は緊急避難的に国債を発行し、各中央銀行が国債を買い上げる形で資金が賄われている。

支出の基礎となる財源のうち、法人税・所得税は経済のグローバル化の波の中で税率の引き下げ競争に巻き込まれ、消費支出に着目した消費税・VAT(付加価値税)は経済に対して影響が大きく日本では極めて引き上げが難しい状況にある。

新聞の報道にあるように既存の税制では財源が枯渇してしまっているのである。

税源の残された領域

◉EU復興債、環境税が財源(6/16)◉G20、法人課税で「歴史的合意」(7/11)最近の新聞に現れた新しい分野の税源を報じる記事である。

EU(欧州連合)は今まで加盟各国の分担金で財政を賄っていたが、コロナ対策としてEU債を出さざるを得なくなり、その財源として新たな「環境税」を創設、財源とすることが決まった。コロナ債の発行に伴い、その償還財源として新しい財源探しに成功し、念願の独自の財源を持つこととなった。

アメリカはグローバル化した企業の国境を超えた節税対策に注目し、新しい税源として国家主権である課税権の拡張を目指して国境を越えたグローバル課税を提案している。

個人金融資産2000兆円

図に示した通り残された財源は富裕層に蓄積されている財産・資産である。日本の相続税の税収は税収総額の僅か5%程度にしか過ぎない。

アメリカではジェフ・ベゾス氏(アマゾンの創業者)はじめ富裕層の納税額が所有資産に比してあまりにも少ないことに注目が集まっている。日本経済新聞(6/10)

トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』は富(資産・貯蓄)の自己増殖性に注目し、r(資本成長率)>g(経済成長率)の単純で非常にわかりやすい公式を導き出し、格差の本質を資本成長率にあるとして、格差是正のために何らかの資産課税を一般化すべきと提言している。

資産(貯蓄)については、日本でも報道されているように今年3月末の個人金融資産は2000兆円と報道されている。

かりに、(r−g)を税率とし、税率1%とすると20兆円の税収が見込めるし、不動産を含む他の資産を含めると、格差解消・社会福祉費用の新しい税源になるかもしれない。

グレート・リセット

「グレート・リセット」は今年のダボス会議で予定されていたテーマだった。コロナ禍は全世界に甚大な被害をもたらし、歴史に学べば収束後は今までと全く違った世界が出てくる。その予兆を感じているのであろう。コロナによる財政悪化もその引き金の一つで、日本の財政を引き返しのできないところまで追い込んでしまった。昭和の敗戦後のグレート・リセットのように、一時的な混乱、財産課税が起きてもおかしくはない状況になっている。

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 



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