第32回 サイバー攻撃に使われだすAI技術⑤

情報セキュリティ連載
サイバー攻撃に使われだすAI技術⑤

〜人工知能に創造性を獲得させた技術「敵対的生成ネットワーク(GAN)」〜

新薬開発にも活躍するAI

終息の見えない新型コロナウイルスですが、各国で新薬やワクチン開発が進められています。その開発においても大きな役割を果たしているのが今回取り上げる「敵対的生成ネットワーク(GenerativeAdversarialNetwork、以下GANという)」という技術です。

1「敵対的生成ネットワーク(GAN)」とは

このGANという技術は生成器識別器という2つの構造から成っており、生成器が生成したデータを識別器が本物か偽物かを判断する仕組みです。

生成器が初期に生成するデータは精度が低く識別器にすぐ見破られますが、この繰り返しを続けると生成器の精度が高まり識別器も見破れないデータを生成するようになります。生成器と識別器は騙し合うことでお互いの能力を向上させているのです。

騙し合いで鍛え上げられた識別器は、画像の判定に高い力を発揮します。
実用例として、癌の画像判断が挙げられます。ベテラン医師でも見落とす初期癌を画像から判断することが出来るレベルにあり、現在、医療現場で活躍しています。

また、生成器は精度の高い画像を生成することが出来るので、ストリートビューのような画像から現実に近い仮想の町空間を生成、自動運転の走行テストにこの仮想空間が利用されています。実際のストリートビューから精度の高い疑似ストリートビューを生成するので、走行データも信憑性の高いものになります。

残念ながらGANは高い技術力を持つため、やはり悪用されます。この技術を有名にしたのは「ディープフェイク」という偽動画から起きた様々な事件です。

ディープフェイクとは、例えば一般人が「緊急事態宣言を解除する!!」と発している動画を作成し、この動画と安倍総理の顔写真をGANの生成器に読み込ませます。そうすると、安倍総理が「緊急事態宣言を解除する!!」と発してる動画が出来上がります。完成度は人が見ても偽物だとはわからない程の高さです。

この動画を緊急事態が解除されていない時期にSNS上にばらまいたらどうなるでしょう。瞬く間に広がり世間は混乱に陥ります。

実際に起きた事件としては、ポルノ動画に顔写真を合成、リベンジポルノに利用され被害を受けた事件や、イギリスでは生成器の技術を音声に応用し、ある会社の社長の声を生成、その会社の経理担当者を騙し犯人へ2,000万円以上の送金をしてしまった事件があり、社会的地位を脅かされたり、金銭的被害も出ています。

2「敵対的生成ネットワーク(GAN)」は新薬開発に貢献

悪用されてしまっているGANですが、世間を恐怖に陥れるためにつくられた技術ではありません。冒頭で新薬開発にもこの技術が使われ始めている事を述べましたが、この技術は画像だけでなく、分子構造も新しい形のものを生成することが可能になってきました。

ウイルスの増殖においてその増殖するタンパク質の型に合った分子構造をもったタンパク質をはめ込めば増殖そのものが止まります。

この形が判明しても従来の方法ではその型に合わせるのに多くの時間が必要でした。しかしながら、この技術を使うと欲しい分子構造を持つタンパク質の生成を比較的短時間で作ることが可能になり始めているのです。今後新薬開発はさらに加速していくと思われます。

3「敵対的生成ネットワーク(GAN)」は人工知能に想像力と創造性を与えた

従来の人工知能は過去の多くのデータから予測を行うことを主にしていました。そのためゲームのようにルールがあるものについては囲碁ソフト「AlphaGo」のような超越的なものが生まれましたが、ルールのないものについては画期的なアプローチがあまり出来ませんでした。しかしながら、人工知能自らが近似データを生成することができるようになったため今後医療分野、モビリティ分野、気候分野など様々な分野で大きな成果が見込まれています。

4ディープフェイクを見破る技術も出てきている

ディープフェイクの被害については既に述べた通りで、今後さらにGANの技術を利用してのソーシャルエンジニアリングやフィッシング詐欺が多く出てくるでしょう。ソーシャルエンジニアリングもフィッシングも人を騙す行為であり精度の高いニセ動画や音声を生成出来るGANの技術は言い方は良くないですが、相性の良いものといえるでしょう。

横行し始めたディープフェイクですが、見抜く技術もいくつか開発されています。次回はディープフェイクを見抜く技術にスポットをあてたいと思います。

《参考文献》ディープラーニングG検定公式テキスト丸山俊一著『AI以後変貌するテクノロジーの危機と希望』富士フイルムHP

 

 


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