情報セキュリティ連載

~ 検品作業に使われ始めたAI技術「オートエンコーダ」 ~

今回より、業務に使われるAIツールにスポットをあてたいと思います。今号は工場の検品作業に利用されているディープラーニング技術「オートエンコーダ」についてです。

1 製造工場の製品検査の実情

製造工場の検品については、製造過程の各工程でサイズ・温度や圧力等のセンサーデータから品質のチェックを出来るようになっているものの、検品作業者による目視の検査を必要としている現場は数多い状況にあります。

検品作業者の業務が減らないのは、製造精度が高く欠品率が低い中で欠品を見つけなければならない状況があるためです。これは生産性の向上を阻害すると共に、検品作業者に極度のストレスをかけています。

この状況を軽減するために人工知能の技術の1つであるオートエンコーダという技術が検品作業に使われ始めました。

2 オートエンコーダとは

オートエンコーダとは、人工知能のニューラルネットワーク技術の1つです。人間の脳のシナプスの情報伝達を真似た構造をしており従来のコンピュータではルール化しにくい人間の感覚的な判断に近いことができる技術です。

人間の脳のシナプスの構造は情報が入る入力層と呼ばれる層が複数あり、この複数の層に一定の情報量が入ると、その情報量をもとに1つの出力層と呼ばれる層にデータが出されるようになっています。

このシナプスの構造を忠実に再現したニューラルネットワークは複雑な問題は解けませんでした。原因としては、出力層が1つで複数の情報に必ず1つのパターンの答えしか出せないためでした。

そこで、出力層も入力層と同じ数の層にし、さらに入力層と出力層の間に中間層と呼ばれる層を挟み込んだ構造にしたところ、複雑な問題にも対応できるようになったのです。これがオートエンコーダという技術です。

入力層と出力層を複数同じにし、さらに中間層を入れたところ、精度の高い答えを返すようになりました。中間層は複数挟み込むことができ、10層、20層と増やすとより複雑な計算が出来るようになり、結果として人間の感覚と同等、それよりも上の判断が出来るようになりました。

3 オートエンコーダの構造

例えば人の手書き文字は様々な癖があります。

オートエンコーダの複数ある入力層に様々なパターンの「1」を設定し、複数ある出力層に入力層に使った同じ「1」が答えになるように設定します。一見すると同じデータを入力層と出力層に入れても意味ないと思われるかもしれませんが、中間層を間に挟むことで認識パータンを増やすことができます。

例えば、入力層と出力層が3、中間層を2とした場合でもパターンが18できます。また入力層と出力層が3、中間層を4とした場合、パターンは36になります。

このように、中間層の数を調整し、中間層を2層、3層と増やすことでより複雑な計算ができ、様々なパターンの1という手書き文字を1という数字として認識できるようになります。

ただ、闇雲に中間層を増やせばいいというものではなく、増やしすぎても認識精度が下がる過学習という問題が出てしまうので調整が必要となります。

4 検品は正常範囲内でほとんどが微妙に誤差がある

工場の検品において様々なパターンの異常値があります。ただし全ての異常値パターンをニューラルネットワークに学習させることは不可能です。そこで、オートエンコーダの機能を逆手にとり、正常な入力層と出力層から出されるデータパターンを学習させ、それとは異なるデータパターンが出た場合に異常検知を知らせるという方法を採用しました。

誤差については、正常値の範囲を人間が決め、その範囲をオートエンコーダに教えることで、異常値を検出するようになります。

5 オートエンコーダの活用について

このオートエンコーダの技術の正確性は100%ではなく、目視検査よりは格段に下がるものの少なからず誤検知が発生しているのも事実です。しかしながらオートエンコーダが現れたことにより検品作業は新たなフェーズに入っています。

オートエンコーダのような人工知能技術は作業現場の正確性や効率性を大きく変えます。人同士の能力差は2~3倍差ですが、人工知能を採用した場合100倍、1,000倍の指数関数的差が人との間には出てきてしまいます。

また、これら人工知能の技術は特徴としてインターネットを介して技術が提供されるため、汎用性のある技術となり、比較的安価で構築することができます。

オートエンコーダを始めとした人工知能技術を提供する代表例としては、㈱プリファードネットワーク、㈱アベジャなどの企業が挙げられます。その他東京ビッグサイトなどでJapan IT Weekが主催する展示会(事前登録をすることで、無料で参加することができます)で多くの企業が出展しており、オートエンコーダを始めとする様々な人工知能技術にふれる機会が増えてきています。

このような展示会で具体的な技術に触れていただくことで、課題解決のヒントが得られるかと思います。是非、参加していただければと思います。

次回は敵対的生成ネットワーク(GAN)の採用例について触れていきたいと思います。この技術は新しい形の詐欺に使われだしており、注目される技術です。


《参考文献》

ディープラーニングG検定公式テキスト  丸山 俊一著『AI以後 変貌するテクノロジーの危機と希望』

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