第28回 サイバー攻撃に使われだすAI技術①

情報セキュリティ連載

はじめに

前回は、AI技術がサイバー攻撃に使用されだすというお話をさせていただきましたが、今回から複数回にわたりフェイク(詐欺)に使われるAI技術をご紹介させていただきます。

AI技術は詐欺やポルノ動画などすでに社会問題になっている技術もあり、これらの被害に遭わないためにはAI技術を理解することが重要となります。まずは基本的なAI技術のお話からさせていただきます。

1 そもそもAIとはなんなのか

そもそもAI(=人工知能)とはなんなのでしょうか。

人工知能については明確な定義は定められていません。ただ多くの研究者の意見としては「推論、認識、判断など人間と同じ知的な処理能力を持つ機械」とされており、広い意味でこれが定義だと思われます。

定義が明確に定められないのは、お掃除ロボットのような古典的なAIからプロ棋士を負かしてしまうような高度な囲碁AIまでを含むためです。

2 AIとロボットの違い

次に、AIとロボットの違いについてです。一般的にはAIとロボットは一緒のように思われがちですが、実は異なります。

AIとロボットの違いを人の体に例えると、AIは脳であり、ロボットは脳以外の部分、つまり人体になります。

AIの研究は、人の脳の模倣という目に見えないものの研究のため、抽象的な定義になってしまいます。

そのため、シンプルな制御システムが行った作業でも人によってはAIが行ったと勘違いさせたり過大な期待を抱かせたり、また逆に恐怖心を抱かせるなど様々な問題も起きてしまっています。騙されないためにもAIを知る事が重要になってきます。

3 AIの歴史

AI(=ArtificalIntelligence)は1956年にアメリカで開催されたダートマス会議においてジョン・マッカーシーという人工知能学者が初めて使い、人間の脳を模倣する技術としてもてはやされました。

しかし、AIにプログラムするルールが膨大すぎたり、コンピュータ自体の計算力が足らずに思うような成果は挙げられず、1990年代からしばらく冬の時代を迎えます。

2010年代に入ると、コンピュータの計算力やインターネットの発達により膨大な情報が入手できるようになり、結果としてディープラーニング(深層学習)というAI技術が誕生します。この技術によりAIの地位が確立されます。

4 ディープラーニング(深層学習)とは

AI研究は最初、事細かなルールを作成しコンピュータに模倣させるという手法をとりましたが、人間の思考をルール化させることは非常に困難で、実現することはありませんでした。

しかしながら、逆にコンピュータ自身に思考ルールを作らせ、判断させる研究がされニューラルネットワークという技術が生まれます。

ニューラルネットワークとは人間の脳神経を模倣したアルゴリズム(プログラム)です。

例えば、猫を知らない人は耳が尖っているやニャーと鳴くなどの特徴を脳にインプットすることで猫というモノを認識します。

ニューラルネットワークも同様の動きをするようにプログラムされています。まず複数の猫画像データを入力し答えにも猫の画像を出力するようにします。そうするとニューラルネットワーク内で出力画像を出すために入力画像の特徴を計算し、人間が猫と認識する特徴と同様の特徴を作り出します。

このニューラルネットワークは単体で動かすとあまり精度の高くない特徴しか抽出できませんが、何重にも重ねることで正確な答えを導けるようになります。これがディープラーニングというアルゴリズムです。

5 ディープラーニングはパンドラの箱を開けてしまった?

このディープラーニング技術は驚異的で囲碁の世界最強プロ棋士を破る偉業をなし得ます。

2016年の出来事ですが、囲碁は10の360乗(0が360個)分という天文学的数値の組み合わせ手法があり、コンピュータには計算することができず、10年以上は人間がコンピュータに負けることはないとされていました。

しかしディープラーニング技術は誕生からたった数年でプロ棋士を負かす囲碁AIを誕生させてしまったのです。

そして2年もしないうちにさらに強力な囲碁AI(多様なボードゲームが戦える)が誕生し、人間が全く歯が立たない状況になりました。なお、囲碁AIに負けたプロ棋士は2019年に引退しています。

人間の脳の思考を模倣できるようになったディープラーニング技術は2045年に人間の知能を超えるという仮説シンギュラリティを誕生させました。ある意味、開けてはいけないパンドラの箱を開けたことに等しいと思われます。

6 ディープラーニング技術はスマホアプリ感覚で利用できる

このように驚異的な学習スピードが早いディープラーニング技術ですが、扱い方も比較的簡単です。

作り出したいモノ(例えば、合成動画)のデータを入力し、出力したいデータ構成を指定すれば自動生成するため、スマホのアプリを利用する感覚で比較的多くの人が使いこなせます。

そのため、悪用もされやすく、セキュリティ関連の研究機関は2020年以降AI技術を利用した詐欺が増加すると警告しています。

すでに芸能人の顔画像をポルノ動画に組み合わせた動画も多く作成されています。完成度も非常に高く、まるで本人が出演しているかのように見え肖像権の侵害の問題に発展しています。

このように社会的問題に深く関わりだしているディープラーニング技術にも様々な種類があります。次回からその種類と活用されている分野についてお話させていただきます。

《参考文献》ディープラーニングG検定公式テキスト

お問い合わせ

神奈川県川崎市で税理士・社会保険労務士をお探しなら

LR小川会計グループ

経営者のパートナーとして中小企業の皆さまをサポートします