イスラム金融

金利のない世界

イスラム社会では金利をとることが宗教上禁止されていることは知っている方も多いであろう。それでもイスラム社会でも銀行などがあり、金融機関が金融業務を行っていることも事実である。

金利のない社会でありながらイスラム社会の金融機関は預金者に対して金利相当のものを支払っている。

なぜ、そのようなことができるのであろうか。金利という存在がないにもかかわらず、実はイスラム銀行は、原価に利益を乗っけて価格設定を行うマークアップを、一般の銀行の利率基準に合わせて行っているのではといわれている。

ゼロ金利・マイナス金利の世界

いま、銀行に991兆円もの預金が集中していて、これに金利がつかない。北風と太陽の話ではないが、ゼロ金利を北風に見立てれば、金利がつかなければつかないほど預金が増える奇妙な時代になっている。

元金融庁長官であった五味廣文氏の講演を聞く機会があった。バブルの生成から崩壊、不良債権処理を経て、金融行政の構造改革に至る平成30年を概観した講演であった。

これからの金融行政は金融機関を監督保護する金融機関行政から、為替や送金などの金融機能を円滑に機能させる金融機能行政に代わっていく、ということを述べておられた。さらに企業資金については産業構造の転換のための資金は銀行ローンではなくエクィティ(株式等で調達された返済義務のない資金)によるべきことを強調されていた。

私たちの世界は期せずして金利のない疑似イスラム社会を体験しているようなものである。

金利の源泉は何か

金利の源泉は何か。渋沢栄一は銀行設立にあたって、銀行の意義を次のように述べている。

「そもそも銀行は大河のようなものだ。役に立つことは限りがない。しかしまだ銀行に集まってこないうちの金銭は、溝にたまっている水や、ポタポタ垂れているシズクと変わりはない。時には巨商豪農の倉の中に隠れていたり、日雇い人夫やお婆さんの懐にひそんでいたりする。それでは折角人を利し国を富ませる能力があっても、その効果はあらわれない。万里を流れる勢いがあっても、土手や岡にさまたげられて進むことは出来ない。しかし銀行を建てて巧みに流れ道を開くと、倉や懐にあった金が寄り集まって、非常に多額の資金となるから、おかげで貿易も繁昌するし、産物もふえるし、工業も発達するし、学術も進歩するし、道路も便利になるし、すべて国の状態は趣をかえる。(下略)」「『新装版澁澤榮一』p.196」

このように、民間銀行にお金を集積させ、産業を振興させ、産業の収益の中から預金者に対して利子を支払う源泉を求めているのである。

日経のコラムから

一方、銀行を中心とする金融機関は日本銀行の異次元の金融緩和以後、ゼロ金利、マイナス金利政策により基幹となる収益源の道を閉ざされ、日銀政策の副作用として金融機関の存続が懸念されている。

ゼロ金利・マイナス金利のいま、金融機関は新たなビジネスモデルを求めている。

10月25日の日経のコラムでは個人の資産管理こそが地域金融機関に求められている業務であると述べている。

また、11月11日のニュースではSBI証券と福島銀行の提携が報道されていて、福島銀行でSBI証券の商品を売ることを報じていた。

産業創造こそ真の役割

金融機関に新たに求められている多くのビジネスモデルはビジネスフィーを求める提案が多い。だが、ビジネスフィーを収益の中核に据えることは預金者との利益相反行為になりやすいことは今までも幾多の例があるとおりである。

ゼロ金利、マイナス金利の時、イスラム金融は何かのヒントあるいは参考にならないであろうか。イスラム金融の本質はわたくしたちが言うところのプロジェクトファイナンスだと理解している。

政府では今、少子高齢化社会を迎えて「全世代型社会保障」の議論が始まった。それならば1860兆円の金融資産を国や産業界を挙げて世界の人々の役に立つグローバルなビジネス提案や、昨今の自然災害により国土の社会インフラの劣化や立ち遅れが浮き彫りにされた日本のインフラを整備することなどを考えてはどうであろうか。とにかく、お金を預かる金融界が主導し産業を創造し預金に利息をつけることが高齢化社会における最大の社会保障になると確信している。

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

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