欠けている二つの視点

会長新事業承継税制

先月6日中小企業庁事業環境部財務課長菊川人吾氏の新事業承継税制の抜本改正についての講演を聴いた。新事業承継税制については先月号でも触れたが政府としては思い切った改正をしたと評価している。しかし、事業承継の一部にはまだ欠落している部分もあるのではないかと気になるところがあった。

2008年に中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を出して中小企業の「事業承継元年」といわれM&Aが認知されてから10年になる。しかし、後継者不在の中小企業が増え続けていることは先月で取り上げた日本経済新聞の「大廃業時代の到来」報道のとおりである。

事業を承継・継続していく形態としては大きく

①親族内承継
②社内従業員承継
③M&A

の三つといわれている。

欠けている一つの視点は、②の社内従業員による事業承継に焦点をあてた事業承継政策が取り上げられていないことである。

社内承継:経営者側の壁

社内承継の壁の第一は創業経営者の「心の壁」である。ほっとタイムス4月号(229号)で書いたように大創業時代を経た創業者やその後継者などは高度成長と長寿化社会の到来と重なって、いつまでも元気で経営できる錯覚に陥って後継者については”まだまだ”という感覚の方が多かった。

そうした背景から事業承継について漠然と「後継者は社員の中から」と考えていた経営者が多かったように私自身は受けとめている。ましてや事業を引き渡して引退し、引退後のことを考える間もなかった。元気に働いていて気がついてみたら”後ろに誰もいなかった感”が非常に強く感じられる。自分のライフプランを考える習慣のなかった人、考える余裕のなかった人たちが引退の時期を迎えているのである。

社内承継:承継する側の壁

第二の壁は承継するときの「株価の壁」である。株価は暗黙裡に親族内承継における株価、承継時の資産価値とされている。

しかし、社内承継の場合は同族会社であっても、株価は過去の業績に基づく企業価値であるが、社内承継では将来価値を反映させたもの、原則的にはゴーイング・コンサーンによる株式の評価が妥当性があると思つている。

社内承継による事業承継の形態は引継ぐ創業者などとの関係は複雑で、創業者のライフプランや、引継ぎ時の創業者の年齢や引継ぎ後の係わり方によって千差万別、創業者の承継後を支える経済的な面は次に述べるように多様な組み合わせが考えられるのである。

したがって、社内承継における株式の価格については、当事者の合意を原則とし、相続税評価額との開きについては課税リスクを排除することが望ましい。

同族会社の株式の価格は役員退職金と反比例し、役員退職金は役員報酬と比例関係にある。したがって、社員が後継者となるときは、現在価値で相続する相続人や親族が事業承継者となる場合とは決定的に異なるのである。

第二の視点

欠けているもう一つの視点は、後継者不在の企業へ次世代経営者が生まれ育つまで専門経営者を派遣、あるいは経営を委託し企業を継続させる視点である。

オーナー経営者の下で5年~10年単位で中小企業の経営を引き受ける専門経営引受人を育成するファームが出てきてほしいと考えている。中小企業の経営ができる実質ナンバー1なり、オーナーの名目的経営者のもとで実質的に経営を仕切るナンバー2の人材を育成する機関なり、斡旋する機関を育て上げる政策を早急に実施して欲しいものである。

似たような機能を果たしているのは破綻企業の事業再生・企業再生に対しては中小企業再生支援のシステムがある。中小企業庁を旗振りとして各都道府県単位に各省の公的支援制度とその実行部隊として事業再生・企業再生支援を専門とする民間事業者が中小企業の再生を担っている。

一方、黒字の優良企業でありながら後継者不在のために廃業する企業が続出してきているのは前述のとおりである。破綻企業の救済もさることながら優良企業を継続させることはさらに重要なことである。

単なる斡旋だけではなく、現経営者と事業経営承継者の長期にわたる利害調整を伴う契約内容の調整や育成ができる機関の創設と社内社員の育成研修機関の整備と併せて強く望むものである。

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 


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