新事業承継税制

新事業承継税制会長

今年の4月から新しい事業承継税制がスタートした。従前の納税猶予制度を改正するのではなく、新しい納税猶予制度として10年間の期限を限って創設されたのである。

内容を簡単に紹介すると、

①相続人に限定せずに相続人以外でも対象になる
②従来は株式の3分の2までと株式数が限定されていたが新制度では全株式が対象となる
③納税猶予の対象額が株式評価額の80%までという制限があったが、新事業承継税制では100%の金額を対象にする
④雇用維持要件が緩められた
⑤経営承継計画の承認を県知事から受けなければならない

などが従前の制度と異なる主要な点である。

中小企業の現状

中小企業の現状はいろいろな調査でもはっきりしているように家族後継者が減少して廃業する企業が続出していることである。しかしこれは、ほっとタイムス4月号「大廃業時代」でも書いたが、「消えるGDP22兆円:大廃業時代」シリーズの中で内野博之社長も述べているように「〝息子たちには自分の人生を歩んでほしい〟と親族承継に二の足を踏んでいた」とあるように、中小企業の経営者は子供たちを後継者として育ててこなかったことに大きな要因がある。しかも、創業経営者は後継者に子供たちよりも、長い間仕事を一緒にやってきた社内の社員の中から適任者を選びたいという気持ちが強い。

今度の新事業税制では相続人以外でも新事業承継税制の適用を受けられる。しかし仔細に検討すると、「相続又は遺贈」が条件とされていることから、相続人以外の親族(いとこ、はとこ、相続人の配偶者など)が想定されているのであって、従業員に対して遺贈をしてまで事業承継させる風土にはなっていないのが実情であろう。

社内承継による事業承継

永年税理士としてお客さまの事業承継に携わってきて、社内の後継者に事業を継がせることは至難の業であると痛感している。

社員への事業承継が難しいのは、一つは創業経営者に事業承継に対する心構えや事業承継後のライフプランができていないことであり、もう一つは中小企業の株式に対する税制である。

中小企業経営者のライフプランについては後日に譲ることとして今回は税制に焦点を絞って私案を述べてみたい。

親族以外の社員が事業を承継する場合は、当事者間の「事業承継契約」を尊重し、10年間等の一定期間内に事業承継すれば、現在ネックになっている株式の価格については、株式の評価額によらず当事者間の合意した価格で株式の移転を認めることが望ましいと考えている。当事者の事業承継に関する契約を原則そのままに認める制度にして欲しいのである。

対価・報酬形態は多様

同族会社においては、株価は過去の業績に基づく価格であって、将来の企業価値を反映したものではないのである。しかし、事業承継における企業価値は将来価値を反映させたものでなければならない。つまり、事業承継における株式の評価は原則的にはゴーイング・コンサーンによる株式の評価が妥当性があると思っている。

もう一つ、同族会社の株式の価格は役員退職金と反比例し、役員退職金は役員報酬と比例関係にある。したがって、社員が後継者となるときは、現在価値で相続する相続人や親族が事業承継者となる場合とは決定的に異なるのである。

社員が社内承継するときの創業経営者が受け取るべき対価は、今後における業績見通しは当然のことながら創業経営者のライフプランに従って老後生活に合わせて受け取るべき株式対価、承継期間内に受け取る役員報酬、最終的に引退するときに受け取る役員退職金などについて多様な組み合わせが考えられる。

さらに、新しい形態としては後継者へのストックオプションを与えるなどの方法も考えられる。事業承継の形態・程度によって多様な契約形態が生まれるであろう。

したがって、税法が「事業承継契約」を誘導するのではなく、当事者の契約内容をそのまま認めるような「税法中立」が望ましいと考えている。

社内の社員に事業承継させるには長年の雇用関係の中で人物、技術・識見などが暗黙の了解のもとで形成されている中で熟柿が落ちるように承継されるような制度であって欲しいのである。

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三

 


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