不動産は“どこ”をみる?

私道の相続税評価の問題 ③

裁判前月号は、平成26年10月26日東京地裁判決について原告Xの主張、被告Y税務署長の反論まで見てきました。両者の主張は平行線です。果たして裁判所はどのような結論を導き出したでしょうか。

【平成26年10月26日東京地裁判決続き】

〈裁判所の判断〉

両者の主張に対し、裁判所は、

①通達24で規定されている評価方法は、通達が定められた趣旨(納税者間の公平、納税者の便宜、課税事務の効率的な処理等を目的とする等、昔は60%評価だったのを30%に改めていること、平成11年7月19日付け課評2-12ほか)に加え、土地価格比準表の定める減価率(共用私道の減価率50~80%、準公道的私道80%以上)の範囲に収まっていることからその減価率は合理的なものであること

②本件通達の私道の区分方法には建築基準法や道路交通法の規定を受けることにより、私権の制限を受けることがあることを踏まえて定められたと認められるところ、上記土地価格比準表において、私道の評価をするにあたり、位置指定道路であるか否かにより評価割合を異にする評価基準を設けていないことが認められるのであって、このことを考慮すると、本件通達が位置指定道路であるか否かにより、評価割合を異にしなかったからといって、直ちに合理性を欠く各評価方式を定めたものということは困難であること

③本件私道は、いわゆる行き止まり道路の一部であるところ、本件相続の開始した日において、本件私道を利用する者は、本件私道及び本件隣接私道に接する宅地上に存するA建物からH建物までを出入りする者に限られ、しかも、これらの建物は、いずれも戸建ての住宅又は共同住宅であって、これらの建物を出入りする者は、そこに居住する者又はその関係者等に限られるものと認められる(筆者注:共同住宅については各専有部分の居住者の数ではなく、共同住宅を一つの単位として見ている)。

そうすると、本件私道は、前提事実のとおり、位置指定道路を含むものではあるが、その現実の状況に照らすと、不特定多数の者の通行の用に供されているものではないことから、Xの請求を棄却しました。

【裁判例に対する検討】

ここで浅学ながら、当方なりの検討を加えたいと思います。

(手続きとしてベストであったか)

本件は、一旦通達どおりの評価をした後、それを翻して非常に低い価格で評価したうえで更正の請求を行ったもので、おそらくセカンドオピニオン的な手段を使ったものと見込まれます。当方はセカンドオピニオンを否定するものではありませんが、当初申告で税理士がしっかりと現場を見て、裁判で認定されているような事実を確認し、お客さまに説明したうえで申告していたらどうなっていたでしょうか。たとえ高い評価にならざるを得ないとしても裁判まで持ち込まれるような事態は避けられたのではないのでしょうか。

〈減価率の幅〉

裁判例でも認めていますように私道の減価の理由はいくつかありますが、その中に建築基準法上の道路か否かも当然含まれると解されます。確かに通達24前段はそういったものも含めて、特定の者の通行の用に供されている私道の減価率は画一的に70%という価値率を定めています。

しかし、位置指定道路はその廃止及び変更の自由も厳しく制限されており、このことは、不動産実務に携わる者、建築確認行政を司る建築主事において広く周知されていると認められます。

このことから、それが事実上道路としての機能を失っている場合はともかく、道路としての機能を有しており、周辺土地の利用状況から今後もその機能を有していくと見込まれるのであれば(本件では私道に出入りする宅地の所有者が私道の所有者又はその親族で固められており主張としてはやや弱いかもしれませんが)、通達6項を適用して、土地価格比準表の共用私道における最高減価率である80%でチャレンジするのもありかもしれません。

また、利用価値が著しく低下している宅地の評価(タックスアンサー№4617)の10%減額でチャレンジするのもありかもしれません。

〈土地価格比準表の適用範囲〉

税務署は反論の中で土地価格比準表は地価公示における地価調査において用いられていると主張していますが、土地価格比準表は国土利用計画法に規定する許可、不許可の処分又は勧告をする際に求める対象地の価格を査定するための比準表であります。地価公示等の鑑定評価の作業においてこれを参考にしていることはあるかもしれませんが、直接用いられているといったことは私の経験を含めてないと考えられ、このような主張はいきすぎであり、これをそのまま認めてしまう裁判所の見識を疑ってしまいます。更正の請求となると、納税者も税務署も手段を選ばずといったところでしょうか。

不動産はどこをみる?

 


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