不動産は”どこ”をみる?

広大地評価改正の背景

なぜ、広大地評価は廃止され地積規模の大きな宅地の評価が新設されたのか考察をしてみたいと存じます(あくまで筆者の私見です)。

【広大地評価は不公平だった】

第一は、広大地補正率を一律に適用すると実勢価格をかなり下回る評価額が算出される土地があったという点です。広大地評価では戸建住宅地分割素地として道路開設の必然性が高いのであれば、いきなり40%以上の評価減が確定しました。またその地積に比例した下げ幅の度合いも大きく、同じ開発想定図を用いた不動産鑑定評価額を相当下回るものが結構ありました。

一方で道路開設の必然性がない宅地の場合、広大地適用はなく、一律近隣地域の標準的な画地の価格水準からアプローチした価格で評価されます。これは実際の不動産市場においては、相当に大規模な画地に係る典型的な需要者はデベロッパーに限定され、その購入価格はエンドの価格ではなく、分譲価格とそのために必要と見込まれる造成費等を考慮した仕入れ値となるという事実を見逃していたのです(※)。

つまり、形状の悪い大規模地は実勢よりも低く、形状のよい大規模地は実勢よりも高く評価されていたわけです。

【富裕層の節税対策防止】

第二は一部の富裕層の間で相続開始前に広大地の要件を満たす宅地を取得し、相続開始後、市場において高値で売却するという節税策が行われていたということです(当方ではこのようなケースに出会ったことはありませんが、一部で行われていたようです)。

【わかりにくい概念だった】

第三に広大地評価の規定の多くが不動産鑑定評価実務等の概念を借用しているほか、あいまいな表現であったためにその適用の可否に悩むケースが多かったということです。広大地の判定をするためには、その宅地の有する様々な条件を明らかにし、現地調査もふまえたうえで判断しなければなりません。不動産鑑定評価実務等に精通した税理士であれば、判断に迷うことは少ないのかもしれませんが、世の中の多くの税理士にとっては、大きな負担となってしまいました。事実、広大地判定は不動産鑑定士に丸投げなんていう事務所も多く見られました(そのおかげで相当潤った不動産鑑定士もいらっしゃったようです)。丸投げですから、判定の依頼を受けた不動産鑑定士は責任を一身に背負わされるわけですので、「広大地かそうでないかのラインぎりぎり」という場合に保守的な判断(広大地ではない)に傾きたくなると聞いたこともあります。

【責任回避が起こった】

第四は、第三の論点と関連するのですが、広大地判定についての否認リスクが大きい(その税理士では責任をもった判断ができない)ので

◉当初申告では広大地に該当しないものとして評価し、更正の請求を行う税理士がかなりいたということ
◉そもそも広大地の検討すらしなかった税理士がいたということ

です。この結果、相続税申告の分野では広大地評価を当初申告で見落としていないか等を後からチェックし、納税者に更正の請求を提案し、更正の請求が成功したらその何割かを報酬としてもらう「セカンドオピニオン」とよばれる業務が浸透しました。

これは国税側の負担も増大させたものと見込まれます。更正の請求となると一旦預かった税金を還付しなければならないので国税側もその理由について詳細に調査しなければならなくなりますが、その結果、(強引ともとれる主張で)否認されるケースや否認を巡って争いになる事例もみられました。公開されている広大地関連の裁判例や国税不服審判所の裁決例のほとんどは当初申告で否認されたケースではなく、更正の請求で否認されたケースではないかと思料されます。当初申告できちんと判定するケースが多かったらこのような改正はなかったかもしれません。

【今後の動向と対策】

パブリックコメントの意見募集は既に今年7月21日に締め切られ、平成30年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した宅地の評価に適用されます。

地積規模の大きな宅地の評価は広大地評価よりも要件が明確化されており、税理士としては判断に迷うことが少なくなるといえるでしょう。また、今まで広大地評価を受けられなかった形状のよい大規模地には朗報といえるでしょう。

その一方で、今後は広大地評価と比較して評価額が高くなる宅地が相当数出てくる可能性、ひいては実勢価額を上回る宅地が出てくる可能性も予想されます。また、「セカンドオピニオン」に代表されるように相続税の当初申告を行う税理士に対する納税者の眼は厳しくなっています。これまでは「広大地評価すべきだったのにこれをしていなかった」から「鑑定評価すべきだったのにこれをしていなかった」という主張に変貌するかもしれません。

そうすると、今後、規模の大きな住宅地については様々な不動産の条件をにらんだ実務的な判断等ができるくらいの能力が税理士にも求められてくる時代に移行していくといえるかもしれません。また、広大地判定で潤ってきた不動産鑑定士にとっては、きちんと土地の最有効使用を判定するだけでは足りず、それを適正な手続きを踏んで価格にまで落とし込んでいく能力が求められる時代に戻っていくといえるかもしれません。

※不動産市況がいい時等は仕入れ値がエンド価格を上回ることもあるので留意してください。

 

 

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