金融機関はどう変わるか

会長捨てられる銀行

「文芸春秋」平成28年5月号には〝金融長官が緊急提言〟として「銀行は半沢直樹を見習え」と金融庁長官森信親氏のインタビュー記事が掲載された。あわせて、今年の5月にサブタイトルのような橋本卓典氏「捨てられる銀行」が発行され版を重ねている。

内容は金融機関を監督している金融庁が、かつての金融行政を率直に反省しながら従来の監督的な行政から銀行を地域と共に永続できる金融機関を育てる方向へ転換しようとしていることを紹介したものである。

不良債権処理で歪んだ金融機関

1997年山一證券や北海道拓殖銀行の倒産などを契機に金融行政は金融機関の健全性を保つため不良債権処理を中心に検査が行われるようになった。また一方、中小企業の資金繰り悪化を受けて中小企業融資については特別融資制度が拡充された。

●この制度を利用して金融機関は自己融資を特別融資に切り替える動きが顕著であった。たとえば、有名な事例はY銀行の事例だ。特別保証が始まってまもなく「当行としては、本制度を『貸出資産健全化の千載一遇の機会』ととらえ、優先課題として徹底推進する」として旧債振替を全行で行った。

当時を振り返ってみるとこの金融機関の借り換えによって私たちのお客さまの中堅企業が何社も倒産したことを思い出す。

●中小企業は貸し渋り解消策として信用保証制度によって借りやすくなったにもかかわらず、逆に資金繰りが悪化してしまった。以前は短期手形貸付が中心で利息だけ支払って、期日に書き換える方式(短コロ)で実質利息を払うだけでよかったものが保証融資によって元利金の返済が求められることになったから資金繰りが逆に苦しくなってしまい、以後新規に借り入れをする中小企業は極端に少なくなったのである。

金融庁はいま、以前の短期の手形融資に切り替え〝短コロ〟を推奨し書き換え時に利息だけ払って資金繰りができるように提案している。

●また、低金利に喘ぎ止むをえない(?)とはいえ金融機関の営業の在り方について次のような事例をあげて、金融機関はお客さまの利益を侵害しているのではないかと指摘している。

「保険会社が豪州ドル建ての運用を定額部分と変額部分に分けた一時払い保険を、銀行や証券会社を窓口にして売っています。

なぜ売れているのかというと、商品製造元の保険会社が売り手の銀行や証券会社に6~7%という金利状況では考えにくい手数料を払っている。

検査官が調べたところ、実は豪州国債の利回りは年に2・5%。それを「1%で運用する」とし、1・5%をさや抜きしているのです。10年だと15%。これを折半して7%です。お客さまからすれば、豪州国債をそのまま買った方がお得なのに、情報を十分にディスクローズ(開示)していない。これってとても失礼ですよね」

私が経験した事例では、債券を金融機関から奨められて保有していた社長さんが個人担当の営業担当者に「今が売り時ですよ」と勧めらて売ったところ、法人担当の別の営業担当者が、それとおなじ債券を「今が買うチャンスですよ」と法人に買わされた事例があった。

囲い込んだお金をA→B→C→D→Eと転々と転がして手数料収入を上げるそのたくましい営業力に驚嘆した経験がある。

銀行本来の役割

「銀行がリスクを取らなくなり、担保や保証に依存した融資をするようになった責任の一端は私たちにもあります」と森金融庁長官ものべている。

その上で、

「重要なのは、地元企業との付き合いを大事にして、その価値を高めること。いわゆる「リレーションシップ・バンキング」を実施して、地元企業から〝オンリーワンバンク〟と思ってもらえるような銀行を目指すことだと思います」

「銀行は、企業にとって経営上の課題や悩みがあるときに最初に相談する〝ホームドクター〟のような存在であるべきなのです。貸し手の論理でなく、借り手のためになる融資こそ、求められている。これは地銀に限った事ではなく、すべての金融機関にあてはまることです」

等々述べている。

私たちは森長官のもと、金融機関が企業に優しい地域と共に成長してくれる金融機関に変わることを期待したい。

 

税理士法人LRパートナーズ
代表社員 小川 湧三


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