赤字は悪か?

平成 27 年度税制改正

平成 27 年度の税制改正大綱が発表 された。その目玉の一つに法人税率の軽減がある。法人税率の軽減は中小企業にとっても嬉しいことではある。しかし、一方で減税の代替財源として外形標準課税の強化や繰越欠損金控除の縮減など企業の税負担が増える改正も盛り込まれているのである。

その理由の一つとして中小企業の赤字法人が 70%を超えて法人税 を実質的に負担していないのではないか、法人である限り社会的な便益を受けているのでそれなりの税負担をすべきである、というような議論があった、と聞く。

赤字の正体①

70 %の中小企業が赤字である、と いうけれども、赤字の会社がずーっと赤字であるわけではなく、赤字、黒字を繰り返しながら、平均的に言えば1年黒字で2年赤字の状態を繰り返しているのが実情であろう。

当グループでは決算が終了すると3期連続増収法人、3期連続減収法人数などの分析をしているが当グループのお客さまでは3期以上連続している法人は少なく、増収・減収を繰り返しながら事業を継続しているのが実態といってよい。

企業を船にたとえれば大企業は大型の外洋船でどんな荒波にも耐えられるが、中小企業は一寸した景気の変動や社会の動きに絶えず影響を受けるのである。

赤字といっても人為的に区切った1年単位の計算である。会計規則上は便宜的に1年で計算することになっているけれども、経営者にとっては、事業を一年一年に区切って計算しているわけではない。

今放映されている朝のテレビ小説「マッサン」ではウイスキーづくりのドラマが進行しているが、事業を興し軌道に乗せるまでには長い期間がかかることがよくわかってもらえるであろう。中小企業を創業・起業する場合でも開業すればその日から事業が軌道に乗るのではなく、「石の上にも3年」といわれるように軌道に乗せるまでには何年もの期間がかかっているのが普通なのである。

赤字の正体②

もう一つ、法人の赤字問題の背景には、税制の制度上の問題、いわゆる法人成りの問題がある。つまり、個人事業の所得と同じ内容であっても、法人になると個人事業所得が

①役員報酬
②不動産所得
③利子・配当
④家族給与
⑤法人所得

に課税区分が変わるので通常、負担税額の総額でも少なくなるし、個人事業よりは法人にして事業を始めることが融資など制度上有利になることが多いのである。

したがって、法人税単独で赤字云々、比較することがナンセンスとしか言いようがない。この法人成りの問題を度外視して、中小企業の 70 %赤字問題を論じることはできないし、この制度上の矛盾を外形標準課税や、繰越欠損金控除の問題で解決しようとするのは筋違いであろう。

赤字の正体③

赤字のもう一つの視点を提示しよう。一時期、赤字を戦略的に使って成長してきた企業がある。古い話といわれるかもしれないが、堤義明氏が経営していた国土計画である。堤氏は会社全体の利益を4億円に抑え、既存の事業の利益を不動産、リゾート開発に先行投資し、先行投資による開発期の赤字で調整する戦略を取り、不動産事業を拡大発展させてきた。

堤氏の事業方針によって地方のリゾート開発が進み、雇用が進み地方の活性化が図られたことも真実の一つであろう。赤字はその先にある雇用を生み出しているのである。

中小企業で云えば役員報酬を削ってでも社員の雇用や給与を守っている経営者が多いのである。 増税は中小企業を直撃する外形標準課税の強化や繰越欠損金控除の縮減は法人の 99 %を占め、し かも、その中の頑張っている中小企業を直撃する。お客さまの中には2000年以後の中国への生産拠点シフトによる産業空洞化、2008年のリーマンショックを耐えて自分の給与を「ゼロ」にして雇用を維持してきた経営者が多くいる。

何度か不渡りを出しながらも不死鳥のように復活してきている企業もある。このような企業を見ていると「赤字企業は悪」「赤字企業は淘汰されるべき」だという感覚にはなれない。アベノミクスの成長戦略の一環として地方の創生と経済活性化を望むならば、地方経済の主役である中小企業の活性化を積極的に進めなければならない。このような視点で見ると、中小企業への負担を増す増税法案はちぐはぐな政策だと思うのである。

税理士法人LRパートナーズ 代表社員 小川 湧三

 


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