私が望む中小企業税制
税制改正のシーズン
税制改正のシーズンがきた。川崎商工会議所でも例年のとおり税制改正要望をまとめた。各地の団体から恒例の税制改正要望が出されることであろう。財政再建に頭が一杯の財務省には聞いてもらえないのだろうが、中小企業に係わる者として理想の中小企業税制を提案してみたい。中小企業の税制の基本は、創業しやすく、企業体質を強くし、企業を継続しやすい税制が望ましい。
創業しやすい税制
創業しやすい税制とは創業時の一番の関門である創業資金を集めやすい税制である。創業間もない企業は実績がないためなかなか融資が受けられない、事業の将来性も、創業者の経営能力も未知数のため金融機関から融資を受けるのは困難である。
公的資金制度の充実はもとよりであるが、エンジェルなどと言われるように、一番の創業時の資金提供者は身内や、身近な友人たちである。これらの人たちが創業時の資金を出しやすい税制にする。
すなわち、出資金、貸付金の形態の如何を問わず、創業時に資金を提供した時や、損失が生じた時には他の所得から控除できるような税制にすべきである。また、創業後一定期間(たとえば5年間)に生じた損失は期限なしに繰り越し控除できる制度が望ましい。このような制度は現在では残念ながら皆無であると思う。
企業体質を強くし易い税制
企業体質を強化し易い制度については、現在の税制はことごとく正反対で、中小企業に利益を留保させない、体力を消耗させる税制と言っても過言ではない。
第一に、資本金一億円以下の会社は除外されたものの留保金課税制度は厳然として残っているし、繰戻し還付制度は停止されたままだ。
次には昨年実施された「特殊支配同族会社の役員報酬の損金不算入制度」や、役員報酬の期中改訂を禁止する役員報酬に関する税制に至っては、中小企業の実態に合わない実質的な増税で中堅中小企業の体質を脆弱化させるものである。
第三は交際費課税である。交際費を支払った後にさらに追加的に税を課税することは企業の体力を消耗させる。
第四は、減価償却制度が複雑であることである。今の減価償却制度は10万円、20万円、30万円を境に複雑に絡み合っており一見して判りづらい制度になっている。加えてリース資産の償却が加わってさらに複雑になった。中小企業の減価償却制度はシンプルに、簡素にして欲しいと思う。
また、投資を促進する意味でも物理的減損という考え方を、投下資本の回収と言う視点に転換し、思い切った耐用年数の短縮を図ってもらいたいと考えている。
事業を承継しやすい制度
6月号に書いたように経営承継円滑化法が成立し「2008年は事業承継元年」となり中小企業に大きなスポットが当るようになった。しかし、この法律では残念ながら根本的な解決は期待できない。
私は事業承継問題の根本は中小企業の株式の価格を会社の清算を前提とした清算価値によるのではなく、事業継続を前提とする簿価評価にすること、相続により取得した財産の取得価格を相続税評価額にすることにあると考えている。
中小企業の全過程に共通する税制
創業から清算まで中小企業の全過程で共通する税制で是非見直して欲しい制度は「みなし寄付金」制度である。中小企業はその創業時や業績が悪化した時には金融機関からの融資が受けられなくなるのが常である。そのような中小企業に資金を提供できるのは身内や友人やその関連企業である。
税法は親族・身内だからあるいは友人だからできること、グループ内の企業だからできることを、その故に恣意性ありとして利益供与として扱い、資金を供与した側に対して損金算入を認めない。この制度を「みなし寄付金」制度といい、資金を供与する人びとに非常に過大な負担を強いている。
しかも、1997年の銀行・証券会社の倒産・再編以来、中小企業の金融環境は非常に厳しくなった。中小企業であればあるほど、身内同士が助け合っていかなければ成り立たないことがたくさんあることを認めそれを税制にも反映するには、資金の出し手に厳しい、この「みなし寄付金」制度を再考し、中小企業が安心して資金調達ができる新たな道を開くことを望む。
LRパートナーズ代表社員 小川 湧三
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